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日記と小説に似ても似つかないモノです
by kujikenjousiki


現実回帰 怪奇発現

━ザァザァと、雨は止む事を罪とするかのように降っている。
普段は明るいであろう沙耶の部屋は、外の空気に冷やされ、ただ冷たくそこにある。
何時か来た時と一緒だ。広めの部屋には可愛いぬいぐるみが所狭しと並べられ、数を数える気にもならない。
うさぎや白熊など、白が好きだった沙耶の好みでできたその群れは、もう亡き主を動く事もできずに待ち続ける事になるだろう。
カーペットやカーテン、テーブルの色に至るまで白く綺麗なその部屋は・・・病的なまでの潔癖さを思わせた。
その白い世界の中、ほんの数箇所別の色を持つことが許された窓に、部屋とは全くそぐわない黒、闇が現れていた。
闇は、窓から現れたにも関わらず、その体に一滴の水滴すらつけてはいなかった。

「で、何時までその情けない阿呆面のままでいる気かしらね」
俺はハッとした。
息をする事すら忘れてその異邦者を見つめていたのだ。
「な、なんだおまえ、どっから」
「窓以外のどこがあるの?」
当たり前の様に闇は言うが、外は雨だ。そしてここは二階で、沙耶の部屋にはベランダなんかない。
「この雨の中で濡れずに二階まで上ってきたっていうのか」
「あー・・・人間って面倒ね、一々疑問に答えて上げるなんて無意味極まるわ」
そう言いながら闇は、目深にかぶったフードを脱いだ。
「・・・・・・っ」
息を飲んだ。
闇━闇の色をしたローブの下には、轟々と炎の様に猛け吼える、美しい紅い髪をした少女が居た。
少女の両の眼には、全てを裁くかのような冷たい銀の光が灯っている・・・。
この世のモノではない、何か。
その威容が、少女には確かに在った。
「おまえは・・・」
「おまえおまえと煩いね、名前で呼びなさい。私の名前は・・・名は・・・」
「主、まだ名前ないじゃん」
そんな声がどこからか聞こえ、そしてその物体は少女のフードの中から現れた。
「・・・・」
何だ、これ。
この世にこんな奇怪な動物がいただろうか。
亀のような甲羅、猫のような頭、うさぎのような手足、狸のような尻尾・・・そして。
「お初にお眼にかかるな少年。我が名はエル。種族は鵺に属する」
凄く偉そうに、人語で喋っている・・・鵺って・・・確か頭が猿で手足が虎とかそんな空想動物の・・・?
「そしてこちらが我が主。まだ生まれたてでな、名は無いが、気にしてやるな」
エルはそういうと、少女の頭に駆け上った。
「まぁ、私の事は神様でも女王様でもなんでもいいわ。それよりあんたの事よ八神武」
なんか凄く物騒な事を言われた気もするが、それより。
俺の名前をなんで・・・。
「あんた、何なんだ突然」
「いいから聞きなさい、八神武。箕藤沙耶の事で話があるわ」
ドクンと、心臓が跳ね上がった。
何で、コイツが沙耶の事・・・。
頭がこんがらがる。こいつが現れた瞬間から、何一つ理解できない。
「あぁ、その前に一つ聞いておかないと」
ふと思い出したように少女は人差し指を顔の前に立て、ニヤッと笑った。
「デートは、大吉だったでしょ?」
大・・・吉・・・。
ふと、脳裏によぎったその映像。
楽しかったあの日、沙耶とデートをしたあの当日。
そして、その前日にすがった占いの数々・・・。

━「貴方、明日はきっと素晴らしく運のいい日になるわ。間違いないわね」

漆黒のローブを身に纏った紅い少女。
何故今まで忘れていたのだろうか。
「・・・っ!おまえぇ!」
ガッと、少女の胸倉を掴む。
「何が大吉だ!ふざけやがって!」
額と額がぶつかりそうなくらい接近して、叫ぶ。
気づかない間に涙が溢れるが、それすらわからないくらいに俺は激怒した。
「沙耶が・・・沙耶が死んだぞ!・・・それの何処が幸せだっていうんだ!!」
「・・・・・・」
少女は何も言わず、冷たい眼で俺を見ている。
━その眼は、蔑みの眼だった。
「無礼者」
エルがそう一言口にするだけで、俺の身体は動きを封じられた。
フワリと、身体が宙を舞った。
「何も聴かされていなかったようね、その様子じゃ」
俺はぬいぐるみのクッションに向かって吹っ飛ばされた。
打ち付けられ、尻餅をついて、でもその力がどんなモノであるかさえ、否、吹き飛ばされた事すら忘れて尋ねた。
「何を・・・聴かされてないって・・・」
呆然としたその呟きに、少女は答えた。

「八神武、あんたは箕藤沙耶に救われた。その命を。彼女の命で」
━どうやら事態は・・・俺の範疇を軽く超えているようだ━
by kujikenjousiki | 2005-10-04 03:44 | 小説
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