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日記と小説に似ても似つかないモノです
by kujikenjousiki


大吉曜日 中吉下降

「・・・・・・・」
ズズっとお茶を吸う。目の前には見るからに不機嫌な女の子がこちらを睨んでいる。
「・・・・・・・」
カチャリ、と音を立ててカップを置く。なるべく相手の目を見ないように気をつけながら。
「・・・・あ~・・・なんだ」
空気が重く、声を発するのも憚られるがここは頑張り所だと思ったりしてみる。
「え~と・・・まぁ許せ」
「なんだそれ!!」
ガチャン!とテーブルを蹴立てて彼女が咆哮した。こぇぇ。
「人の顔面にドアぶち当てておいて言う事はそれだけ!?」
「悪かったって・・・ワザとじゃないんだから許してくれよ。それにそもそもおまえが遅刻するから俺が急いで迎えに行こうと走ったワケで」
迫力に押されて声が小さくなってしまう、情けねぇ・・・。
「そーじゃないでしょ?こういう時は事故でもなんでも言う事があるでしょ?」
「・・・・ごめんなさい」
彼女は満足気に頷くと、店員さんに声をかけてケーキを三つオーダーした。

                            ◇

「おごりだからってバカバカ注文しやがってからに・・・」
店の支払いを終えて、店の外で待っていた彼女にそんな文句を垂れてみる。
「これでさっきのチャラにしてあげるんだからいいじゃん、ケチケチしなさんな」
笑顔で振り向き、そう言い放った彼女は、名を箕藤沙耶、俺こと八神武の幼馴染であり・・・ついこの間俺の彼女になった。
小柄で黒髪のショートカット、常時明るく、誰にでも活発な印象を与える彼女は、陸上400mのレギュラーを務める程活発にして盛大であった。ってかマンマ<可愛い男の子>で通りそうなぐらいだ。
男女問わず人気があり、幼馴染としてとても鼻が高くはあるのだが、余計な人気が多すぎる。
なので、意を決して告白なんぞに踏み切ってみたのだが、存外あっさり返事を貰い、今に至る。
返事なんてその場で「いいよ」の一言だった。ロマンチックもありゃしねぇ・・・。
「がっ!」
そんな事をおぼろげに思い出していた頭に衝撃が走った。
「聴いてますか?ボンクラお兄さん」
凄く笑顔が輝いていてそらぁもう可愛いのだが
「・・・とりあえずその脚をどかしてくれると嬉しいですな暴力オネエサン」
「あらそぉ?キレイに決まってとっても快感じゃござーません?」
俺の後頭部に遠慮会釈無しのハイキックが見事に決まっていた・・・。
「快感なワケあるかぁ!どこの変態野郎だそりゃ!」
怒鳴りつけて振り払う。あー痛ぇ。
「人の話聴かない武が悪い。私がなんて言ってたか言い直してみろ」
「へいへい、俺が悪かったよ。んでどんなお話でしたかね?」
コイツの手の速さは尋常ではない、何故か俺に対してのみ。(手っていうか脚だが)
「だからぁ、部活の先輩が復帰したんだよ、昨日」
痛みを訴える後頭部をさすりつつ、疑問を口にする。
「復帰って事は入院かなんかしてたのか?その先輩さんは」
「うん、家の階段から落っこちたらしくて、脚を骨折してたんだ」
まてよ?沙耶の先輩って事は
「その人も短距離走かなんかなのか?」
あれ?という顔で沙耶がこっちを見た。
「草壁巳琴先輩って・・・知らない?結構有名だと思うんだけど」
草壁草壁・・・。
「あぁ、テニス部の」
思い出してポン、と手を打つ。
確か1年にしてレギュラーを獲るというかなり強い選手だったんじゃなかったか。
「そ、その先輩。私色々御世話になっててさ、仲良いのよー」
「でもテニス部なのに脚を骨折って、結構マズイんじゃないのか?」
練習にしろ試合にしろ、骨折なんかしたりしたらかなり影響出るんじゃなかろうか。
「うん、試合も練習もできてないし、そもそも脚の骨折なんだからあまり無理はしちゃいけないハズなんだけどね」
「という事はまさか、もう練習したりしてんのか?昨日復帰で?」
そんなアホなと思いつつも質問してみると、沙耶は頷いた。
「凄く元気に走り回って、二ヶ月もベッドの上にいた人間とは思えない程だった」
信じられない、という顔で言うが、その目には喜びが窺えた。
「骨とか、骨折前より強くなってるらしいし。運動不足?なにそれ?って言ってたよ。凄いよね」
アハハ、と笑いながら彼女は言うが、そんな事ありえるのだろうか。
「どんな入院生活すりゃそうなるんだ・・・」
さー?と沙耶は気にとめた様子もなく笑っているが、何と無くひっかかった。
「あ、そういえば先輩言ってたっけ。入院してる間の記憶があやふやなんだってさ」
「あやふや?」
「うん、気づいたら2ヶ月が過ぎてたような気がするって。なんていうか、世界そのものが明るくなった気がするぐらい変わったって言ってたけど・・・どういう意味かな?」
「ん~・・・わかんねぇ」
世界?視点が変わったってことか?ダメだわからん。
「覚えてるって言ってたのは・・・なんだったかな。・・・あぁ、紅い髪した女の子だ」
・・・紅い髪?
なんだっけ、俺は知ってる気がする。
確か昨日・・・アレ、なんだっけ?
「まぁそんな事よりさ、速く行こう?」
あぁ、そうだった。俺達はデートしにきたんだった。
「すまねぇ、んじゃいこうか」
やっと俺達は並んで歩き出した。
by kujikenjousiki | 2005-09-21 01:34 | 小説
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