日記と小説に似ても似つかないモノです
by kujikenjousiki
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カテゴリ:小説( 33 )

気紛れ話 ~FAIRY SNOW~(1)

「あの、すいません」

最初誰に対して言っているのか分からなかった。

唱えたのは女。

囁くような、ただ呼びかけるだけの、他に何ら意味などない言霊。

その言葉が、俺に対して放たれたという事に気づくのには、数秒が必要だった。

辺りを見回す。

雪が音も無く降り積もるこの静かな公園に存在するのは俺と彼女、二人だけだった。

「……俺?」

しかいないとは解っていても、訊かない訳にもいかないだろう。

俺は静かな声で呼びかけに応じた。

「はい…良かった、気づいて貰えて」

ホッと安堵の息を吐く。

吐き出された息が瞬時に凍り、白い靄となって消えていく。

可愛い子だな、と思った。

少し長めの、癖の無い黒髪。

前髪に隠れて見えにくいが、まだあどけなさの残る顔立ち。

眼は静かな光を湛えて、こちらを視ている。

「…妙な言い回しだ」

視線を彼女から外し、ポケットから取り出した煙草に火を付ける。

人を観察するのは趣味じゃない。観察されるのも。

彼女は、何が珍しいのか、少し離れた位置から俺をまじまじと見つめている。

それに、こんな夜更けにうろつくような不審者の話をまともに聴く程、お人よしでも無い。

「あぁ、すいませんすいません」と、俺の心を読んだかのように謝る。

…まるで俺が悪者のようじゃないか。

「いや、いい」

頭を上げさせ、向き直る。

とはいえ話を聴く気も無い。

俺は無視を決め込むように彼女の横を通り、去ろうとした。

が。

「あ…ま、待って…ください」

ギュウ、と裾を捕まれる。

カミサマ、俺何かしましたか。

紫煙を溜息代わりに吐き、振り返る。

「…何」

彼女の顔を見据える。

なんというか…彼女はそう、必死だった。

普段どういうコミュニケーションの取り方をしているのか知らないが、凄く興奮している。

目尻には涙を溜め、何事かを伝えようと必死なのである。

俺は、また溜息と一緒に紫煙を吐く。

もう逃げられんのだろうなぁ。とか考えながら。

アブナイ人に関わりたく無いというのもあったが、それ以上に。

予感がするのだ。

関わったらタダでは済まないという、絶望的なまでの予感が。

「あの、あの…」

というか、何でこの娘はここまで話下手なのだろうか。

さっさと本題を言ってくれればこちらとしても反応の取り様があるのに。

彼女は、俺に何かを言おうとする度に噛む。

まるで、会話をするのがこれが初めてだとでも言うかのように。

最早逃げる気さえも失って、俺は彼女の言葉をボンヤリと待ち続けた。

「あの…あの、あ、貴方の、貴方の魂をください!」

彼女は、ようやく俺に話を伝えられた、という事実に喜んでいる。

そして、それと同時に予感が的中した事を知り、俺は三度、紫煙を吐いた。

                          ◆

俺の名前は龍座一石(りゅうざ いっこく)

古くから伝わる神道の道筋を往く一族の一人だ。

つまりはまぁ、坊さんの息子ってとこだ。

そんな俺だからか、生まれた時から変な能力を持ってた。

実家である寺の和尚、俺の爺さんの言う話では能力自体はそんな珍しいもんでもないらしいが、俺個人としての資質が並外れているらしい。

例えば、幽霊を視る事のできる人間。

自分の目でそれを見る事ができる人間は、実は結構一杯いる。

TVやカメラ、ビデオの等の映像媒体を通せば、普段見る事のできない人間にも見れる。

幽世と現世の差なんて実際そんなもんだ。

だが、俺はちょいと話が違うらしい。

話というか何と言うか。

爺さんは人としての〝根本〟、造りが違うと言っていた。

俺は幽霊だったら見るだけではなく触れるし話せる。

相手が妖怪って呼ばれるモノなら、闘って祓う事もできる。

つまりは、そんな能力だ。

霊的濃度が高いというか、俺の魂が幽世と現世の境目に位置しているっていうのが理由らしい。

だからだろうか。

俺は彼女の声に応えてしまったのは。

                            ◆

「断る」

俺は即座に切って捨てた。

今の台詞で、彼女が人ではない〝何か〟だというのは十分に知れたから。

「えぇぇ」

素直に「いいよ」とでも言うと思っていたのか。

彼女は涙目っていうか泣きながら悲鳴を上げた。

「何でですかぁ?折角ちゃんと訊けたのにぃ」

グスグスと鼻をすすりながら、批難囂々。

「何でも何も、上げたら俺死ぬじゃないか」

何で俺が死んでまで彼女に魂やらねばアカンのか。

「だってだって、お腹減りましたよ?生まれたばっかりなんですから」

「知りません。というか何で俺なんですか」

恐らく、彼女は雪女だろう。

俺は魂の質柄、化生に命を狙われる事が多い。

流石にこんな捻りも何もない催促は初めての事だが…。

「うぅ、ひもじい上に寒くて死にそうです。死んだらどうするんですかー」

「何で雪女が凍え死ぬんだ。それにそんなに腹減ってるならその辺の山でも潜って精気の吸収でもしてくればいいだろ」

「ヤです。山の精気って青臭くて私のグルメな舌に合わないんですもの」

ならそのまま潔く逝け。

そうは思ったが、流石に口に出すのを抑えた。

「そうか、ではさらば」

今度こそ、普通の溜息を吐きながら俺は歩き去る。

いい加減付き合うのにも疲れ果てたし、何より彼女が化生と分かったのだ。

このまま相手をしていたら本当に魂を食われかねん。

「あー、待ってくださいお兄さーん」

俺は無視して歩く。

もうすぐ家だし、生まれた場所から出ずに生きるのが彼女等化生の慣しだ。

背中からは批難の声。

さっきと比べて凄く饒舌になってるのは幻聴としよう。

きっともう会う事も無いだろう。

                           ◆

実家から離れた場書にある学校に進学するために、俺は安アパートの一室を借りている。

初めての一人暮らしは何かと困難を極めたが、それも初めの内だけ。

ある程度落ち着いてくると、この生活もまた心地良かった。

ただ厄介なのは、合鍵の場所を入学した学校でできた唯一のマヴダチに知られてしまった事だろうか。

俺がバイトから帰宅すると、何故か人の部屋でくつろいでいる馬鹿を見る事も少なくない。

そして、今日もまた俺の部屋から明かりが漏れている。

溜息を吐きながら、今にも崩れそうなサビサビの階段を登る。

そして、鍵が勝手に開けられているのを確認し、ドアノブを回す。

「ただいま…」

「おう、お帰り~」

寝そべりながらTVを見、部屋の主に背中を見せて挨拶をするこの男。

壬生俊之(みぶ としゆき)

不良よろしく頭を金髪に染め、片耳にピアス。

ただコイツの場合見かけだけで、腕っぷしはからっきし。

こないだはちょっと本気で喧嘩をした彼女に伝説のパロ・スペシャルをかけられ、マジ泣きしていた。

まぁ女子プロな彼女相手に喧嘩を売ったコイツの落ち度だが。

今は深夜のエロトーク番組に熱中症気味だ。

「一石、おみやげ…は…」

何を期待していやがったのか、振り向き俺に手を差し伸べようとしていたバカの表情が凍る。

「ねぇよそんなもん」

俺はそう言いながら靴を脱ぎ、台所に移動しようとしたが、俊之に腕を捕まれ足を止める。

「何だ?ホントに何にもねえぞ。それよか俺は飯を…」

振り向きながらその手を払おうとして、俺もまた凍りついた。

「お兄さん、私にもご飯~」

それが当り前とで言う様に、彼女は居た。

「何でいるぅ!?」

何でだ、化生は地縛霊みたいなもんじゃなかったのか。

焦りで思考がグルグルする。

とゆうか、この娘様。

ご丁寧に実体化までしてやがる…!

唖然としている俊之に俺は必死に語りかける。

「いや、ホラ、外は寒そうだし、この娘身寄りも無いっていうんでね?ちょっと飯でも食わせてやろうかーなんてね!?」

必死で偽る俺の乾いた笑いが部屋に響く。

だが、その声に俊之は耳も貸さず雪女を見つめ、見つめられている雪女はニコニコと俺に柔らかい微笑を向けている。

あー…俺何か凄くバッドエンドに近い気がする…。

そして、遂にその終りは始まった。

俊之の目に一瞬でブワッと涙が溢れ、夜中だというのも忘れ叫んだ。

「一石が女の子を連れ込むような色情狂いになったぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
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by kujikenjousiki | 2006-02-07 17:27 | 小説

一時の休息

「さぁて……まいったわね」
 白銀に輝く月の中心に、小さな小さな影一つ。虚空に浮かぶ箒に腰を降ろした少女がポツリと呟いた。
「やってくれるわ此処の創世者も…まさかよりによって私にこの仕事させるなんてね…」
 膝の上に頬杖をつき嘆息する。
 彼女の瞳に映るのは、自分と全く同じ顔をした少女と、白い剣士の逢引シーン。細かく言えば眼下の少女の瞳の色や髪の毛の長さなど、微妙に違ってはいるのだが。
「どうしたモンかしらねぇ…」
 彼女の身に纏っている漆黒のローブの胸元から、一枚の紙片を加えた伝承とは全然違う姿をした小さな鵺、エルが顔を出す。
「どうしたもナニも、指令通りに動けばいいんじゃないの?」
 少女はエルから紙片を受け取ると、眼を通した。この作業は既に一度済ませてあったが、現場における現状と、自分が想定していた状況とが激しく違いすぎている。紙片にはこうある。曰く、〝突如出現した歪の除去及び、歪を起こした当事者の消却〟
 この当事者が一体誰を指すのか。それはもう疑問とする必要さえないはずなのだが、どうにも腑に落ちない。
「主~、早く動こうよ。僕もうこの世界飽きちゃった」
 何にもなくてつまんな~いとブーたれる小動物。人が考え事をしていてもどうやらお構い無しのようだ。
「うっさいわね…もう暫く様子を見ましょう。結果が見えているのなら、少し変化を求めたっていいでしょう?それに、これで終るわけがない」
 それに、そのくらいないと役得にもならない。
 彼女は呟くと、ブツブツと抗議するエルを無視してその場から飛び去った。
 
                            ◆

「………」
 深い深い深淵から意識が浮上する。
 どうやら、長い間眠っていたらしい。目覚めたネフェルに、ホルスが駆け寄った。
「良かった、やっと眼が覚めたのね?」
 彼女は安堵の息を吐いた。
「ホルス様…俺は一体…ここは…?」
 思考が霞がかったようにボンヤリとしていて、どうにも意識がハッキリしない。
「呆れた、あれだけの事をしておいて覚えていないだなんて」
 クスクスと、可笑しそうに笑う。
「ここは城内の医務室よ。あなたが怪我をして運びこまれるなんだて初めての事だから、馴染みは薄いでしょうけれど」
 ネフェルは頭を振って霞みを払い、意識を凝らした。そしてようやく、昨夜の闘いを思い出した。
「あ…俺は…負けた、のか…」
 自ら挑んだ闘い、そして初めての完全な敗北。未だ胸に残る斬撃による痛み。ガードしたはずなのだが、衝撃だけはどうにもならなかったのだろう。そして、その衝撃で槍は断たれ……。
「そうだ、ロンギヌスは!?」
 思い出し、慌てて周囲を探す。親父から受け継いだただ一つの形見、俺の…相棒。
 槍は、ネフェルが寝込んでいたベッドのすぐ横の壁に立てかけられていた。
 その姿は日光に照らされ美しく、何時もの通りの華々しき白銀の輝きを宿していた。
「ロンギヌス…どうして」
 ネフェルは傷の痛みも忘れ、呆然としていた。なにせ、この槍は昨夜の闘いで完全に両断されたはずなのだから。
「凍牙…いえ、白翁様が言っていました。貴方のロンギヌスは神器。神の創った物故にその性質は極めて異質で、武器一つにも意思がある、と。もしもその槍があなたを主人と認めていなければ、その力は発揮されない。ただの槍に成り下がるだろう、と」
 ホルスはネフェルを見つめ、凍牙に託された言葉を告げる。
「そして神器にはもう一つ、特別な機能があると。神器を手にする者は須らく、己が魂を半分武器に宿し、武器の意思と融合させる。それ故に、武器自体は不滅の物となるそうです」
 それは持ち主の意思とは関係無く行われる儀式。しかしネフェルはその説明に何らかの確信を得た様子だった。
「つまり…俺が死ぬ時までロンギヌスは」
 ホルスはコクリと頷いた。
「えぇ、貴方と共に在り続けます。そして、その槍の力を解き放つのもまた貴方次第なのです、ネフェル」
 ネフェルはその言葉を聴くと、ロンギヌスを抱きかかえ、俯いた。
「すまねぇロンギヌス…」
 不甲斐無かった。まだ主として認めてもらってすら居なかった自分。そして、強さに甘んじて浮かれていた自分が。そんな自分に付き合ってくれていたロンギヌスに申し訳無くて。情け無くて。恥ずかしくて。
負けた、という悔しさもあってか。
 ネフェルは初めて泣いた。
 心の底から、自分を見つめて。
「……ネフェル」
 どれほど泣いたのか、ようやく彼の嗚咽が落ち着きを見せた時、ホルスが口を開いた。
「聴きなさい、ネフェル」
 優しく、ホルスがネフェルの頭を撫でる。初めて自分の呵責に気づいた子供を慰める母親の様に、優しく。
「…貴方を今苛んでいるその苦悩はきっと大切なものです。考えて、悩み抜きなさい。そして、誇りを持ちなさい」
 ネフェルは少し驚いて顔を上げた。
「誇りを…?」
 こんな愚かな自分がどうして誇りなど持てるというのか。
「貴方は今まで闘い続けてきた。それが全て私や、貴方の愛する国のためであった事は誰よりもこの私とあなたが護り抜いた民達が知っています。そうでしょう?」
 ネフェルは答えられなかった。
 本当に?
 今まで彼はそう信じて闘ってきた。
 自分が愛する民達を護ると。
 傷ついても、例え死しても仲間を護り勝利を納める事が、王を喜ばす方法だと信じて。
 でも本当はどうだったのだろうか。
 全ては自分の名誉のためだったのかも知れない。自分が喜ぶための方法だったのかも知れない。汚く醜い自分のプライドを保持するために闘い続けてきたのかも知れない。たったそれだけのために、自分と同じ〝命〟を奪い続けてきたのかも知れない……。
「例えそうでもいいじゃないですか」
 驚きに眼を見張る。
 ホルスが、まるでネフェルの心を読んだかのように━━
「清濁を決めるのは、結局自分なんだと思います。それがどのようなモノであれ、貴方は結果を出したじゃないですか。だから、誇りなさいネフェル。私は貴方が立派であると信じているのですから」
 自分を疑って悩めるぐらい清廉な精神を持ったこの男を、一体誰が罵れるだろう。
 「きっと、自分を一度も疑わずに生きれる人なんていませんよ。でも、疑ったら、ちゃんと確認してください。ちゃんと、信じてください、自分を」
 ホルスはベッドのすぐ傍の窓を開けた。柔らかな陽射しと風、そして小さな子供達のはしゃぐ声が流れ込んでくる。
「ほら」
 ホルスが外に一声かけると、子供達が走り寄ってきた。
「こんにちはホルス様っ!」
 元気に挨拶をする子供達を、彼女は慈しみながら出迎えた。
「ホルス様、ネフェルお兄ちゃん元気になった!?」
「ネフェル様、怪我だいじょうぶー?」
 子供達が心配そうにホルスに訊く。
「えぇ、もう眼も覚めてすっかり元気みたい」
 挨拶してあげて、とホルスが促すと、窓を飛び越えて彼等はネフェルに駆け寄った。
 矢継ぎ早にネフェルを心配する声がかけられる。
「……これも貴方が導き出した結果なんですよ、ネフェル」
「……はい」 
 もう、苦悩する事もないだろう。
 そう考えたが、またも涙は止まらなかった。
 柔らかい陽射しと空気の中、彼は泣いた。

                               ◆

「…己が弱さに苦悩するくらいでないと、強くはなれんさ」
 陽射しから逃げるように木陰の中でのんびりと座っていた凍牙が呟いた。
 眠たげに、眼は半分閉じてはいるが、視線は窓の中の光景をちゃんと映していた。
 彼はとても良い戦士となるだろう。それこそ、英雄に。
 自分の弱さも強さもちゃんと知った上で、人は初めて成長できる。それを知らないままでは、限界も底辺も見えずにただ彷徨うだけ。そんな人間が強くなれるワケがない。
 一度は必ず敗北を知っておくべきだ、と彼は考える。その敗北がどのような容で訪れようと。だが、それに飲み込まれたままでは意味が無い。
 今のネフェルのように、どんな些細なきっかけでも立ち上がる事が出来れば、必ず成長するだろう。どの方向に成長するかは人次第。
 その道が例え愚道でも、歩き切らねば見えぬモノもあろう。
 ネフェルは運がいい。
 初めての敗北が、ホルスという絶大なる助けを得て、立ち上がる事ができたのだから。
「後は貴様次第だ、ネフェル」
 今まで子供達にせがまれて、瑞穂国に伝わる一般的な遊びを教えていたのだ。
 子供の世話など初めての事で、少々疲れたが、ただ、なんとなく心地良いモノがあった。
 この先、闘いに身を没する事なく、こうしてのんびりと過ごしたいと、望んだ。
 初めて幸せという感覚に浸った戦士は、穏やかな寝息をたて始めた。
 
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by kujikenjousiki | 2006-02-01 03:11 | 小説

約束

 誰かが呼ぶ声がした。
 聴くだけで心が暖かくなるような、優しい声。彼はその優しい主を護るために、強くなった。けして、誰にも傷つけさせないように。けして主が悲しまないようにと。
 あぁ、でも彼女は今泣いている。彼女の声に応えないと。彼女を、護らないと━━
   
            ◆

「ネフェル!」
 倒れたネフェルの頭を抱えるようにして、ホルスは彼の名を呼ぶ。
 此処は庭園。今この場に在るのは気絶しているネフェルとそれを介抱しているホルス。
 そして、その現状を巻き起こした男、凍牙の姿があった。
「凍牙様!一体何故こんな事になっているのです!」
 もっと早く止められたはずだが、闘いに見とれていたとは流石に言えず凍牙に経緯を問う。
「……なに、ただの訓練に過ぎません」
 二人の姿を見守っていた凍牙が答えた。
 そう、この闘いはあくまで訓練という名目で行われたのだ。それが例え真に命を賭けていようとも。それで死んでしまえばそれは事故でしかない。
「ネフェルが私に師事を請うてきたのでね、少し揉んでやっただけの事。そんなに心配しなくとも命に別状はありません」
 何も問題など無かったかの様に飄々と凍牙は言って除けた。
「で、ですがここまでしなくても…」
 命に別状は無いと聴いて安心したのか、ホルスは息を吐きながらネフェルの頭を撫でた。 気づけば、ネフェルの呼吸が休まっている。そのまま寝てしまったのだろう。
「…彼は強くなります。今よりもっと。ただ、闘い方を知らないだけだ」
 そう、彼は強い。
 基礎としての身体は十分に鍛え上げられているし、技の使い方や放つタイミング。自分の長所を生かした戦闘スタイルも完全に確立している。だが…。
「彼は今まで幾多の戦場を駆け巡っていたのでしょう」
 凍牙は、二人の横に胡坐で座り、ネフェルの顔を覗く。
「彼の戦術は全て、一対多を想定した物だ。一対一、つまり先程私と剣を交えた時のような、決闘での戦闘を想定していない」
 彼の闘い方は、全ての挙動が大味なのである。超高速で駆け巡るのは、そもそも相手の視界から姿を消すためだけではなく、相手の懐に潜り込みながら混乱した多勢を纏めて吹き飛ばすための予備動作に過ぎない。
「今まで彼は〝戦争〟しかした事がないように思えます。多勢を一人で相手にするための技が抜きん出ていて、それを活かせる場所はそこにしかなかったのでしょう」
 ネフェルの動作を全て思い出そうとするかのように眼を瞑る凍牙を、ホルスは驚愕しながら見つめた。
 驚かない方がおかしい。だってそうだろう?たった一度の戦闘で相手の癖からその戦闘経歴まで、闘いに関する情報全てを見切ってしまっているのだ。背筋に寒気にも似た戦慄が走る。
 この男は、本当に人なのだろうか。そんな愚問すら、奇妙な震えとなって胸を焦がす。
「貴方は、一体何者なのですか」
 深く考えたわけでもない言葉が、口をついて出る。
「……」
 その言葉に何を感じ取ったのだろうか。凍牙は音も無く立ち上がり、ホルスの前に立った。
「今一度、私は名乗りましょう。私は白翁凍牙。この身は貴女を護るために在る。貴女の横で生くる許可を戴きたい」
 ふわりと、羽毛が落ちるかの様な優しく、緩やかに、凍牙はホルスに跪き、右手を差し出した。
 ホルスはその動作に一瞬見惚れたが、戸惑う事なくその手を取った。
「…誓いなさい凍牙。貴公の御身は私を護るために存在し、貴公の命はシュシュバルツァのために散らす事を惜しまないと」
 ホルスの眼には、先程までの恐怖にも似た怯えはなく、ただ真摯に王として生きる者の輝きを纏っていた。〝王の眼〟が語る。彼の言葉が真意であると。
「御意に。決して違える事非ず」
 凍牙は再び、ホルスの手の甲に口付けをした。手の甲が紅く燃える。
 二千年前の小さな約束が今、果たされた。
 こうして、シュシュバルツァから失われた剣は、王の鞘の中へとその身を戻したのだ━━ 
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by kujikenjousiki | 2006-01-25 02:22 | 小説

凍牙とネフェル・2

私は夢の様なその美しき〝闘い〟を前に、身動き一つ出来なかった。

                            ◆

私は自室に戻ると、一人ベッドに転がった。

〝嬉しい〟

私の心を騒がせるその感情は、未だ落ち着いてくれはしない。
思えばそれは当然なのかも知れない。
生まれた時から自らの脚で立つ事を許されなかった私が、今こうして他人の手を借りず、立ち、歩き、駆ける事ができるのだ。
涙が溢れる。
嗚呼、本当にこれは現実なんだろうか。
夢じゃないという事が信じられない。
でも、そうこれは━━。
凍牙の顔が浮かぶ。
精悍で、儚げで、絵画のように美しいあの人。
そして、あの人が告げた言葉・・・
〝良き夫として愛情を〟
「━━ッ!」
思い出して顔が燃えそうな位に熱くなった。
そうだ、彼の言っている事が本当なのならば喜んでいる場合ではない。
彼は男だ。
彼の願い通りに私と婚姻を結ぶのだとしたらかなりの数色々な問題を処理しなければならなくなる。
「結婚・・・かぁ」
だが、私にはそんな事よりも彼と結婚をするという事の方が大事だった。
「結婚・・・凍牙と・・・」
今は脚の事だけで私は十分に幸福なのに、彼との結婚が頭をよぎってしょうがない。
どうしよう。
正直嬉しい。
なにしろ、ぶっちゃければ彼はモロに私好みの男なのだ。
はっきり言って一目惚れだった。
今一番の悩みはそう、今後彼に嫌われないようどう接するかだったりする。
倒れた彼の顔を見た瞬間、恐怖も確かにあったが何より、彼が誰であるのかという方が私の中では膨らんでいた。
あぁどうしよう。
私は王なのに、男の事など考える暇があったら良き政策を立てた方が皆のためなのに。
でも想いも思考も、どうやったら彼と円満な夫婦になれるかという方法論に傾きだしている・・・。
確かに私達は出会ってまだ一日と経っていない。
だがそれがどうした?
時間?彼という人間?
そんなものはすぐに埋まるし理解できる。
とゆうかもう、彼の動作や仕草、言動からその使い方、彼がどういう性格をしていてどういう人間として確立しているのかさえ、私は全て把握している。
それもこれもこの〝王の眼〟のお陰なのだが、まぁとにかく。
今現在解っている事は、彼が私と結婚したがっている事。
それは恋や愛ではなく使命から来るものなのだが、気にする事などない。
これは好機だ。
なにしろ、その想いを育む時間はこの先十二分にあるのだから。
だが一筋縄ではいかないだろう、何しろ彼の性質ときたら・・・。
純粋さと狡猾さ、その相反する心理の同居故に生まれる彼の中の深い闇。
でも、それも含めて私の好みなのだ。

・・・・じゃなくて。
ああもう、どうしてこう思考が転がるのだろう。
私はベッドの上をゴロゴロ転がりなんとか冷静になろうとするが、どうも上手くゆかない。
先ほどまでの自分の身体に関する喜びだって醒めてなどいない。
それに、問題の解決も今はまだなんにも浮かんでこない。
それでも、できることなら私は━━

「うわぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

「ヒッ!?」
突如、闇を引き裂く様な悲鳴が響き渡った。
「今の声は・・・」
そう、今まで聞いた事のないような大きな叫びだったけれど・・・今のは。
「ネフェル!?」
私はベッドから跳び起きると、すぐに悲鳴が聞こえてきた方向に駆け出した。
あのネフェルが叫び声を上げるなんて、唯事じゃない。
彼は英雄なのだ。
この国で最強の戦士として、誰かに向かって恐怖を顕にした事などないだろう。
なのに、
「━━っはぁ、はっネフェル、一体何が?」
走るのなんて初めてだけど、なんとか呼吸を合わせながら庭園へと向かう。
足がもつれるのを何とか回避しながら、私はテラスから一望できる庭園へと視線を━━

                          ◆

「━━ぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」
〝クイックムーブ〟のルーンを発動させ、百の距離を一瞬で零にする。
両手に構えた〝ロンギヌス〟が敵の心臓を喰らおうと再度吼え猛る。
その速度は連続使用により増加速し、音をも超えるかといった疾さなのだが、
「〝疾い〟だけでは意味がないぞ」
白い侍は事も無げに見切り、紙一重で完全に回避する。
「っの減らず口、今すぐ畳んでやる!!」
直線的な突進を捻じ曲げ、円へと動きを変える。
「これでもかわせるかよっ!」
凍牙を中心に、円周上に駆け回る。
凍牙を囲む環は、ネフェルの加速と同時にどんどん狭まってゆく。
「ふむ、確かに回避は難しいだろうな、初見でこの技を見せられれば。しかし」
のんびりと呟く凍牙を無視し、遂に円は点と成った。
「貫け!ロンギヌス!!」
光速に近い速度となったネフェルが凍牙の背後に回ると同時に、速度をそのまま乗せた突きを放った。
だが━━
「少し冷静になれば、回避など造作もないな」
またしても紙一重。
背後から襲う神速の刺突を、凍牙は槍の矛先が衣服に触れると同時に、刺突の速度と同じ速度を持って回転し、受け流した。
「な━━」
今まで一度として、この攻撃を破られた事など無かった。
だのに、この男は・・・。
「どんな奇抜な動きを見せようとも、結局最後に行う攻撃は刺突なのだ。ならば、結局は直線の動きに過ぎぬ」
いとも容易く見破りそして━━
背中に回し蹴りを浴び、ネフェルは吹っ飛んだ。
「ネフェル、貴様にとって必殺の技であったのだろうが、油断が過ぎるぞ。背中が完全にがら空きだ」
本当に、ネフェルに教えているのだ。
最初の言葉通り、〝訓練〟として。
「━━ぐぁっ!っはっゲフッ」
木に背中から激突し、うつ伏せに倒れ込む。
「てめぇ・・・っ本気で闘いやがれ!!」
吼える。
ネフェルの眼が告げる。
どのような実力差があろうと、相手が本気で懸かるのならば本気で対応する。
それがネフェルの流儀だった。
「・・・ふむ」
然り、と凍牙は一度頷くと、〝にやり〟と笑った。
「気に入ったぞネフェル!」
声も高く笑う。
その笑いは、豪放磊落にしてそう、古き異邦人が魅せた笑顔に瓜二つであった。
「その心意気見事。貴様を子供扱いした事をまず謝罪しよう」
背筋をピンと張り、深々と礼をする。
「その粋に従おう」
面を上げた凍牙の表情にはもう、一遍の甘さは存在しなかった。
「っげふ、そうだ、それでいい」
咳き込みながら立ち上がる。
もう痛みでそこかしこの感覚は薄れ始めている。
それでも、ネフェルは悟っていた。
こんな強い男と闘える機会など、きっとこの先在りはしない、と。
心臓が恐怖と興奮で高まる。
もしかしたら死ぬかも知れない。
それでも、この先俺が強くなるための障害として大きな大きな扉が邪魔してるとして、こいつとのこの闘いはそれをブチ開けるための最高の鍵となる━━!!
「はっ━━はっ━━覇!!」
息を整え、再度身体に気合を吹き込む。
もう頭の片隅にも先程までの嫉妬のような暗い感情は無い。
心は澄み渡り、既に身体は歓喜に打ち震えるように全身で息吹を挙げている。
もう、〝英雄〟なんて不釣合いな名前は捨てた。
「〝戦士〟ネフェル、参る!!」
もう一度槍を構える。
今度こそ、何者にも揺らがない強き意思を持って、彼は立ち上がった。

                         ◆

素晴らしい、と思わずには居られなかった。
まだ若輩とはいえ、闘いに挑むこの意志。
彼はもう立派な〝戦士〟だった。
何故、私は彼を甘く見てしまったのだろう。
何故、彼の本質を見抜けなかったのだろう。
何故、私は眠っていたのだろう。

そう、私は眠っていた。
闘いに臨する意識を、私は眠らせていた。
あの〝儀式〟を最後に、私は〝戦闘意欲〟を眠らせたのだ。
もう二度と呼び起こす事が無いようにと祈ったのに。
だが、それはどうやら私の甘さが下したくだらない自己完結だったのかも知れない。
なにせ━━

〝私〟はこうして目覚めたのだから。

                         ◆

「素晴らしい覚悟だネフェル、その粋に応え、私も目覚めよう」
両手の甲がアツイ。
〝儀式〟の際に刻まれた、両手の紋章が銀に輝く。
「どうやら私は知らなかった訳ではないらしい、そう、ただ━━」
目の前に広がる〝夜〟に、右手を振る事で円呪を刻む。
紋章と同じ銀の色で、虚空に陣を描く事ができた。
「無意識に封じていただけなのかも知れぬ」
完成した陣に、同じく輝く左手を突き入れる。
私の左手は虚空に吸い込まれるようにしてその姿を消すが、その陣の先に、確かな感触を掴む。
「私も初めて見るが、特別に貴公にも御見せしよう、これが我が封印されし世界での宝刀の新たな姿━━」
掴んだ得物を、虚空から抜き放つ。
「宝刀━〝白銀〟」
美しい刀だった。
鞘は無く、ただ闘う際にのみ所持する事を許された刀。
刀身は、まるで存在しないかのように薄く薄く輝く。
月の光が無かったら、本当に透明なのかも知れない。
そして、その薄さ。
まるで一枚の紙を横にしたような薄さで、とてもではないが斬るためのモノとは思えない。
だが━━

ネフェルはその刀を見た瞬間に、確かに〝死〟を見てとった。
「流石だな、もう気づいたか」
やはりこの男は才気に満ち溢れている。
一目で〝白銀〟の用途に気づくなど、そうそうできるものでもない。
「そうだ、この刀はただ〝絶つ〟ためのものだ」
物質は、原子の〝繋がり〟でできている。
この刀はその幽かな繋がりでさえ、〝絶つ〟
「ネフェル!」
私は一言、声をかけた。
「生き延びてみせろ」
もしもこれが常人ならば、刀を視界に収めた瞬間に絶望と共に諦観の念を抱いただろう。
しかし。
ネフェルは、私がしたようにニヤリと笑うと、前傾姿勢を取った。
それを見て私も、白銀を正眼に構え、吼えた。
「〝白翁ヶ当主〟凍牙、参る!!」

                        ◆

私は呆然と、テラスからその光景を見ている事しか出来なかった。
その苛烈さ、華やかさ、美しさ、そして雄々しさ。
私が見てきた狭い世界が、本当に広がった一瞬だった━━

                        ◆

ネフェルが一直線に飛び込む。
凍牙が完全にその速度と間合いを読み、白銀を居合の要領で真一文字に横に振るう。
だがネフェルもそのタイミングを一瞬で解し、唐突なバックステップでギリギリ回避する。
刀が、ネフェルの睫毛だけを切り落とす。
もしも退いていなければ、目玉から頭部が真っ二つだっただろう。
その機を利用して突きかかろうとネフェルが突っ込む、だが。
居合の太刀は振り切った瞬間が弱点だと思われがちだが、凍牙にはそんな手は通じない。
返す刀でネフェルの首を落としにかかる。
「━━ッ」
ネフェルは倒れるように間合いを詰め、射程の更に内へと身を翻す。
空中で前転し、座りこむように凍牙の背後を取ると、背中を向けたまま脇の下を通し槍を突き上げる。
「甘い!」
凍牙は即座に攻撃の線を見極めると、横に飛んだ。
しかし、それもネフェルの狙い通り。
「まだだ!」
立ち上がりながら槍を引き戻し、即座に刺突に持っていく。
だが凍牙は横からの攻撃に腕だけで反応し、白銀の腹でロンギヌスを受け流す。
身体を凍牙の前に流されたネフェルは、振り下ろされる高速の一撃を横に転がる事でなんとか逃げ切った。
追い討ちをかけようと駆け出した凍牙の鼻先に、転がった回転の勢いを載せてロンギヌスを投げつける。
流石に不意を突かれた凍牙も、少々驚きながら身を引いて弾いた。
「ふん、得物を投げ捨てる莫迦がどこにいる、諦めたの」
「余裕見せてんじゃねぇぇぇぇ!!!」
もう一度構え直そうとした凍牙の目の前には、弾かれた筈のロンギヌスを手に高速の連突きを繰り出そうとしているネフェルが突っ込んできていた。
「な━━」
「オラオラオラァァァァ!!!」
速度の乗った槍を更に加速させるように、ネフェルは槍を突きまくった。
殆ど音速の連突きを、凍牙も負けじと全て受け流す。
その競り合いで剣と槍から火花が飛び散り、闇は一瞬花火に照らされたかのような華々しさに彩られる。
「くっ、どういう事だ━━!」
二度も不意を突かれ、凍牙は焦った。
「ロンギヌスは二股がけが好きでな、何時でも片方は別の男に逃げられるんだよ!」
そう、防戦一方になった凍牙の眼に映るロンギヌスは先程までの二俣の槍ではなく、一本の針の様に刺突だけを目的とした一本の槍となっていた。
「そうか━━まさか分解するとはな」
細身のフォルムからは想像しがたい程の強度を誇るロンギヌスだ、例え半分に成ったとしてもその威力は半減するどころか、脅威となるだろう。
「この槍は神様の御手製でな、そんじょそこらの槍とは全てが違うんだよ!」
神と勝負をした際に勝ち得た神槍・・・材質はオリハルコンという現世には存在しないモノで組上げられたいわば、神器。
「だが使い手がまだまだでは、なっ!」
高速の連突を剣の腹で受け流し続けていた凍牙は、突いた瞬間の隙を突き懐に踏み込むと、鳩尾に容赦のない掌底をブチ当て、吹っ飛ばした。

ッパーン!!

大きな水音を立て、水柱が上がる。
運が良かったのか、落ちた先は大きな人口の泉だった。
「っぶは!」
鎧で重い身体を何とか水面まで浮上させた。
何とか縁に手をかけると、真正面から歩いてくる凍牙の姿が見えた。
「では、そろそろ私の手の内も少しばかり見せよう」
かなりの距離を飛ばされたのか、二人の間には凍牙の声が何とか届く程度の空間が在った。
すぐさま身を泉から飛び上がり、体勢を立て直そうとするネフェルに、カチリと鯉口を切る音が聞こえ、そして━━

「太刀断ち絶ち、立ち挑む、剣が舞い裂く水の舞台に━━」
凍牙は詠うように、そう口にした。
そして、ネフェルを襲う冷たく細い糸のような・・・殺意。
「我願わくば一太刀の舞いを献上したくかしこみかしこみ申す者也━━」

ヒュ━━

幽かな、先刻聴いたその音よりも疾く小さい音がした。
「━━うぁあっ!」
そんな幽かな異常に、ネフェルは襲い来る怖気に対して、ロンギヌスを盾にするかのように突き出した。
そして、

キン、と澄んだ音を立てて、ロンギヌスは更に半分に絶たれた。

「あ・・・ぁ・・・」
呆然とするネフェルを他所に、最後の言葉を凍牙は発した。

「━━太刀、水参之式。〝天迦久神〟」
振り切った白銀を、鞘に戻すかの様に左手の内にしまう。
カチン、とまるで刀を納めたかのような金音が響いた━━
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by kujikenjousiki | 2006-01-11 01:26 | 小説

凍牙とネフェル・1

「━━━━以上が、この無名封書に我々が封印された理由、そして、私がこの場に在る理由にございます」
私は、少々長くなってしまった昔語りをここに終らせた。

広間に集められた者達は一様に、祖国の建国に纏わる真実に驚いていた。
「で、では貴方は・・・いえ、白翁と黒楼と言いましたか。貴方達異邦人はその身を犠牲にする事でその悪神を封印し、そして我がシュシュバルツァを救った、と」
鎧に身を包んだ女性が、少々興奮気味にそう尋ねる。
「いえ、正確には犠牲とは意味合いが違います」
私は首を振った。
「じゃあなんだってそんな世界に自分達を封じたっつうんだよ。おかしいじゃねえか」
ネフェルが納得いっていないという顔で言う。
「先に伝えた通り、我等の祖先は女神に何事かを囁かれたのです。詳しい事は解らないのですが、その内容は我等が瑞穂国で闘い続けた事の発端となります」
その囁きが意味したのは、
「女神は一言、強くなりなさい、と」
護ると誓った者を、危険に晒す事などなくなるように。
「主君に仕えるべきは強き者である事が第一。故に、我等は対等な実力を持った好敵手として切磋琢磨し、封印の期限である百年目の最後での闘いの勝者を王に遣わす、と」
その闘いで勝利を修めたのが、私だ。
「・・・信じられん」
ネフェルは言い放つと、席を立った。
「アンタが全てに於いて嘘を言っているとは思わない」
そして、私を指差す。
「白翁凍牙とか言ったな、アンタが話してくれた歴史話の中には、俺達王家に仕える者しか知らないはずの伝承まで混ざっていたから、確かに歴史における真実という点では本当の事なんだろう、だが━━」
その眼が、私に言っていた。
私の事を完全に信用などできない、と。
「口を慎みなさいネフェル、これは命令です」
「・・・・・・っ、はい、失礼致しましたホルス様」
剣呑とした空気を読んだのか、ホルスがネフェルを諌めた。
確かにあのまま喋らせていたら、更なる混乱を招いただろう。
ただでさえ、私の話で広間にいる人間は困惑の只中にあるのだから。
ネフェルが再度席に着くのを待ってから、ホルスは続けた。
「白翁様。貴方がお話して下さった歴史は、私達王家ですら忘れかけたとても重要な真実です。故に、貴方の話だけを鵜呑みにし、そして完全に信じる事はまだできません」
それもそうだろう。
いくら千年の空白があったとしても、それを埋められる事実がポンと目の前に置かれたところですぐに修繕することはできまい。
「よって、貴方にはシュシュバルツァに住む考古学者達と話をしてもらい、その検証の元でより真実に近づけていただきたい」
「それが役目なれば」
私は頭を下げた。
「そして、まだ聞きたい事が残っています」
あぁ、あの件か。
「その・・・封印された理由諸々は解ったのですが・・・貴方は今代の王、つまり私に仕えるために現れたと」
ホルスが少々顔を赤くしながら尋ねてくる。
「はい、私は貴女を、そしてこの国を護るために参上致しました」
「それで・・・なんで私と婚姻を結ぶなどという話に・・・」
広間が、無名封書の由来を話した時の数倍の驚きで沸いた。
「ちょっと待てぇ!!なんだっていきなりそんな話に飛んでるんだ!?」
諌められたはずのネフェルが顔を怒りと驚きで真っ赤にしながら叫ぶ。かなりやかましい。
「魂の契約、話したはずです」
一人冷静な私は説明を続けた。
「我等の祖先、初代である3人は魂を一つとする事で力を増大させ、悪神を封印した。その契約は、その血を引く私達の代でも未だ健在です」
魂というものは、本来個々の〝器〟に宿り、一つの命となる。
だが、この契約はその常を法によって変換させるものだ。
「私達の魂は三つで一つ。故に私達は常に共に在らなければなりません。もしも王が男であった場合は、側近として傍に居れば良し。だが王は女性であられる。ならば夫婦として共に生きるのが最も解りやすく円満な関係ではないでしょうか?」
既に黒楼の魂は私の魂に内包されている。
それがあの〝世界〟での最後の闘いに於ける約束だった。
「認められるか!!」
ネフェルが再度立ち上がり、こちらに向かいズンズンと歩いてくる。
私の目の前に立つと、彼は再度叫んだ。
「大体その契約とやらが怪しいんだ!どこにそんな証拠があるっていうんだ!」
必死にがなり立てるが、論より証拠と行こう。
「私達は本来、世界を別にする事により魂を分割した。しかし本という境界を創ってでの別れです、少々のリスク、そう、例えば暫くの間、魂が安定するまで調子が悪くなる、といった程度で済む筈だったのですが━━」
私は、止めに入ろうと駆け寄ってくるホルスに視線を移した。
それと共に広間の人間がホルスに視点を集中させる。
ホルスは赤い顔を凝視された事により、更に顔を赤く染めた。
「悪神の最後抵抗、のような物だったのでしょう。私達の魂は、境界線を敷いたにも関わらず、それ相応のダメージを負ってしまった」
生まれてくる子供が、身体に障害を持って生まれてくる、といったように。
「ホルス様の場合は・・・皆様方が言うように、脚が悪かったのでしょう」
しかし、今ホルスは元気に立ち、駆ける事すらできるようにまで回復している。
「私達の魂が揃う事により、契約破棄によるダメージも無くなりました」
「・・・・・・・・・」
ネフェルが黙り込む。
そう、彼はその奇跡を一番に眼にし、一番に喜んだのだから。
「では、私の髪が突然真紅に染まったのも・・・?」
私は頷く。
「その通り。私の世界に伝えられているシュシュバルツァの本筋の者は、皆一様に紅い髪をした種族であったと聞き及んでおります」
「では・・・私は本当に・・・」
ホルスの眼に、うっすらと涙が溜まる。
「えぇ、今貴女は正真正銘、健康体のはずです」
涙が一筋、頬を伝った。
彼女の涙を前に、最早誰も言葉を発する事は無かった━━━。

                          ◆

結局、そのまま食事を終え、解散という流れになった。
俺は皆が退席していくのを待ち、最後に広間を出た。
ホルス様は疲れたという事で既に自室に戻られている。
「今訪ねるのは無粋・・・かな」
喜びに打ち震えているホルス様の横で俺も共に喜びたい。
だが、今は一人で考えたい事の方が多いだろう。
健康になった自分の事は元より、これから自分が歩むべき道、そして。
「不埒者・・・凍牙とか言ったか・・・あいつとの契約とやら、真のもんなんだろうか・・・」
俺にとって、そして多分ホルス様にとっても一番の問題であるあの男。
契約の内容はホルス様を護る事だと言っていたが、それが真実であるのかどうか。
例え真実であったとしても、だ。
「認めねぇ・・・あんな野郎にホルス様を護れるワケがねぇ・・・」
そう、今までの通り、彼女を護るのは俺だ。
あんな軟派で不埒な男に彼女を護れる力があるワケがない。
ネフェルは拳を握り、一人でブツブツ呟き続ける。
傍から見たらかなりアブナイ。

ヒュン

「・・・ん?」
何か音がした気がする。
だが、耳を澄ませても何も聞こえてはこない。
「空耳・・・か?」

ヒュンッ

否、気のせいなどではない。
確かに音が、いや、音と言うにはあまりに小さく、掠れた空気の摩擦。
戦士としての感がそれを察知したのだ。
「何だ?」
その違和感はあまりに小さく、自分にとって危険を報せるものでは無い。
だが、ネフェルは興味をそそられた。
音の聞こえてくる方向に、気配と足音を消して歩を進める。
どうやら、城の外からそれは聴こえてくるようだ。

「━━ッ!?」

一歩。
たった一歩外に出ただけで、微かだった違和感が呪縛の鎖となってネフェルを襲った。

夜空には雲一つ無く━━

男はただ座している

星々が瞬く虚空には、大きな大きな満月が一つ━━

ただ、その場に於いて男は

月の灯りが照らすのは、優しく広いこの国で━━

絶対の存在だった

動けない。
動く事など許されない。
生きている事など許されない。
視界など当に無くなりお先真っ暗。
生命活動を否定された苦しみが彼を襲う。
苦しい、息ができない呼吸をさせてもらえない肺が凍らされ心臓は無限と思える刃と針でズタズタに引き裂かれ脳には溶岩のような熱さだけが流し込まれてその痛みは痛みではなく呪いのようででもやっぱり痛くて痛イタいイタイ痛イ痛い意識が呑まれ四肢の感覚は蛇に丸のみされて感覚を残したままに溶かされて苦しい苦しいクルシイイヤダイヤダイヤダこのまま死んでゆくのはイヤダこんな絶望を味わいながら消されるのはイヤダ消えたくない死にたくない誰か救けて助けてタスケ━━ッ!!!

「うわぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
俺は突如襲いかかってきた痛苦に身をよじり、倒れ、叫んでいた。
何が、何が起こったんだ。
理解できない、ただ身体は動かないままで、意識が消し飛ばされそうになるのをただ堪えただけだ。
身体中から汗が流れ、あまりの恐怖から涙や鼻水なんか垂れ流しになっている。
それでも俺は、倒れ伏したその場から動けないでいた。
頭が割れそうに痛い上に肺も痛い。
喉はさっきの悲鳴で傷つき、掠れた呻きだけが空気を震わせる。
「・・・っぁ・・・はっ・・・ぁ」
何とか息を、空気を肺に送り込み呼吸する。
放っておいたら窒息死してしまう。

「・・・貴様は本当にやかましいな」
月光の下、影になりながら男が溜息を付きながら歩いてきた。
「こんな夜更けに外に何用だ。それに、気配を消して移動しても私には意味などないぞ。むしろ逆効果だ」
やれやれ、という風に苦笑した男は、凍牙だった。
「て・・・めぇ・・・一体何の・・・つもり・・・だ」
凍牙の視界に俺が入ってから、先程までの苦しさが嘘みたいに消え、なんとか呼吸を落ち着けた。
「くそ・・・ゲホッ、さっきのは一体なんだ、呪いの類か何かか」
一応俺にも魔術についての学識はある。
故に魔術無効化〝マジックキャンセラー〟の加護を施した装備一式を着込んでいるハズなのだが。
「私には魔術の才など無いのでな、そんな上等なモノは使えん。汚い顔だな、この手拭いを使うといい」
何とか立ち上がると、差し出された布っ切れを引っ手繰るように奪い、顔を拭いた。
「なんて事はない、ネフェルと言ったな、貴様の動きを封じたのは私の気迫に過ぎぬ。〝心の一法〟と呼ばれる、剣気や殺意の類だ」
気にとめた風もなく、そう続ける。
ってちょっと待て、気迫・・・だと!?
「んな・・・たったそれだけの事で俺があそこまで・・・」
気力の違い。
言葉にすれば簡単ではあるが、それを現実の凶器とするには一体どれだけの実力差が必要なのだろうか。
「俺とおまえにそこまでの差があるだと?冗談も休み休み言え」
そうだ、そこまでの差があってたまるものか。
俺はこの国の英雄と呼ばれた男なんだぞ・・・。
「だが、貴様も戦士なれば既に解っているだろう。私と貴様との実力の差が」
「ぐ・・・」
認めたくなどない。
だがそれでも、今俺はその認めたくない男に死ぬ寸前の恐怖を植え付けられたばかりなのだ・・・。

認めたくなどない、ならば答えは決まっている。
「・・・どうせ、どの道決着付けなきゃなんねぇんだ」
俺は、やっと休まった体に鞭打ち、活力を注ぎ込む。
「・・・いいだろう」
凍牙も俺の考えを読んだのか、気を引き締めた。

「あんたの実力、測らせてもらうぜ」
手に刻んだ刻印から〝ロンギヌス〟を取り出し、構える。

「そうだな、貴様の信頼を得るためにはこれが一番手っ取り早そうだ」
凍牙は、無手のまま構える。

「死んでも文句言うんじゃねえぞ?」
「ふん、訓練してやる。ありがたく気が済むまでかかってこい」

二人は同時に飛びかかった━━。
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by kujikenjousiki | 2005-12-27 23:42 | 小説

ネタ話番外編その2ー2 ~XmasなTalesWeaver~


散り散りになって数時間が経過し、ようやく皆の姿を確認した。
「はぁ・・・こんなとこで迷ってるんじゃないおまえら」
「それは一番最初にミラさんが一人で突っ込んだのが原因です」
「いや・・・アレはだな、早くティチエルにプレゼント上げたくて気が逸ってだな・・・」
少し言い訳がましくミラが口篭る。
「まぁまぁ、いいじゃんかボリス~。皆こうやって無事に揃ったんだから」
「そうですね、安心しました」
イスピンが安堵の息を吐く。
「まぁ、それでだな」
シベリンが利きずらそうに苦笑を浮かべる。
「後3時間程で日が昇るけれど、しあわせのくつは出たのかしら?」
ナヤトレイが何の躊躇いもなく利いた。
一同が押し黙る。
「やっぱり、一日でどうにかなるようなものじゃないのかな・・・」
楽天家のルシアンからすらこんな弱音が漏れる。
精神的にもだが、体力面でそろそろ限界だ。
何しろもう10時間以上闘い続けているのだ。
その時だった。

「癒しの風さん、皆を治して上げて!」
突如吹いた優しい風〝ワイドヒール〟に、傷が全て癒された。
『ティチエル!?』
皆が一斉に驚きの声を上げる。
それも当然だろう、なにしろこの闘いは全て、彼女を喜ばせるために内密に進めていた事なのだ。
「な、なんで此処に!?」
ミラが走りよった。
「皆が、私のためにしあわせのくつっていうのを探してるって、マキシミンさんが教えてくれたの」
ティチエルは笑って言う。
「あんのヤロー・・・どこまでも余計な事を」
ティチエルは悲しそうな顔をすると、首を振った。
「? どうしたティチエル」
ミラが心配そうに顔を覗き込む。
「余計な事なんかじゃ・・・ないです」
その瞳には、涙が溜まっていた。
「マキシミンさんが言ってました・・・何時までも暗い顔してるとミラお姉さん達に嫌われてしまうぞって」
「そんな事な」
「何時まで落ち込んでるつもりだ?って。皆が私を心配してくれているのに、私だけ甘えて、動けないままでいるのか?って・・・」
ティチエルはミラの言葉を遮り、続ける。
「私、皆に迷惑ばかりかけてしまっているけど・・・でも、皆の事が凄く大切なんです!」
涙が、零れた。
「皆大事なお友達なんです、もう誰も居なくなってほしくないんです・・・。だから、こんな危険な場所に、私のために来る事なんてないんです・・・皆が居てくれれば、私は嬉しいです・・・」
嗚咽しながら、それでもティチエルは伝えた。
「だから、だからせめて、どんな危険な場所でも私も連れて行ってください」
涙で顔をクシャクシャにしながら、訴える。
「必ず力になります、私が、護ります。だから、お願い・・・」
もう、声は言葉にならなかった。
それでも、その言葉はちゃんと伝わった。
「あーもう、しょうがないやつだな、おまえは」
ミラはティチエルの頭を抱きしめると、優しく撫でた。
「皆おまえを仲間はずれになんかしやしないよ。なぁ?皆」
「当たり前だよっ、ティチエルを仲間はずれになんかするもんか!」
「そうだな、俺達がキミを護ろう」
ルシアンが叫び、ボリスが肯定する。
「あぁそうさ、女の子を悲しませたりするもんか、それに俺達はもう」
「仲間だから」
「皆で助け合いましょう」
皆の笑顔に囲まれてやっと、ティチエルは笑顔を見せた。

                          ◆

結局、しあわせのくつは手に入らなかった。
服はボロボロ、傷はティチエルの魔法で全て癒えたが、どうしても根本的な疲れは取り除けなかった。
それでも皆、満足した顔で帰路についた。
「さて、クリスマスプレゼントなんか用意してないがこれからパーティーでもしようか?」
ミラがそう提案する。
「でもまだ朝日が昇る時間ですよ?どこのお店もやってないんじゃ?」
ミラはニヤリと笑うと、得意げに告げた。
「大丈夫だ、この日のためにアクシピターの支部長黙らせて〝紅い射手〟の船をクリスマスの日だけ解放させた」
『おぉー』という感嘆の声が上がる。
「いよーしおまえら、疲れを癒すためにも飲むぞー」
ティチエルとシベリンとルシアンがおおはしゃぎする。
ボリスとイスピンが苦笑する。
ナヤトレイは無表情のままだ。
七人は、ワイワイ騒ぎながら海賊船に乗り込んだ。
 
                          ◆

そして真夜中、皆が寝静まった頃、船長室で倒れていた面々を驚かす出来事が起きた。
船長室の窓ガラスが静かに開けられ、白い大きな袋が投げ込まれたのだ。
異変に気づいたボリス、ナヤトレイらがすぐさま飛び起き、犯人を追いかけたが、結局捕まえる事が出来なかった。

「・・・なんだと思う?コレ」
ミラが怪しげな袋を足でつつく。
「〝黒い預言者〟の罠・・・じゃないよね?」
ルシアンも呟く。
だが、もしも仕掛けてきたのが〝黒い預言者〟なのならば、既にこの船は燃え尽き、海の藻屑だろう。
「じゃあ、一体何が?」
皆が首を傾げる中、ティチエルが、
「開けたら解りますよぉ」
全員の困惑を全て無視し、開封した。
「ぅおまえコラ!!」
あまりに突飛な行動にミラが怒鳴りながら走りよるが、ティチエルの表情が笑顔で染められていく事に気が付いた。
「ミラお姉さん!ほらこれ!」
笑顔でミラに何かを渡す。
渡されたミラの困惑顔が驚きに変わった。
「これは・・・!」
新品の服だった。
黄泉での冒険から新しい服をすぐ作る事も出来なかったので、皆ボロボロの格好のままだ。
「おぉ、それになんか人数分の綺麗なアクセサリーなんかもあるぞ?」
それぞれの服に加え、ミラにはピアス、シベリンには腕輪等センスの良いプレゼントまで詰め込まれていた。
「あ・・・っ!皆、これ!」
一緒になって袋を漁っていたルシアンが歓喜を上げる。
その手には、見た事もないデザインの靴が━━
「それ、しあわせのくつじゃないか!?」
ミラは慌ててラグランジュの冒険日誌を捲る。
そこには、ルシアンが手にしている靴と同じデザインの靴が描かれていた。
「わぁ・・・素敵」
ティチエルは幸せそうに笑った。
「一体、誰がこんな事を・・・」
サンタクロースではあるまい。
彼等は、靴下を枕元に置いて眠る子供にしかプレゼントをしないのだ。ミラやシベリンは当にその範囲外である。
「イスピンは一体どんなものを貰った?」
シベリンが嬉しそうな顔で声をかける、が。
「ありゃ?いない?」
イスピンだけが、もうその場には居なかった。

                        ◆

「マキシミンッ!」
真夜中、雪がシンシンと降り積もる無音の街の中、イスピンはようやくその姿を見つけだした。
「・・・・・・どうしたイスピン、早くお友達の所に帰ってやれよ」
マキシミンは振り向くと、そう笑った。
その姿はボロボロだった。
マントは破け、下着のシャツには所々血が滲んでいる。ネクタイも眼鏡もどこかに行ってしまったようだ。
「それとも、こんな寒空の中で凍え死ぬおつもりかな?御姫様はよ」
何時もの軽口にも、力はない。
「マキシミン、キミはなんだってこんな━━」
イスピンが肩を支えようと走り寄る、が。
「━っ! 寄るな!」
マキシミンは叫び、牽制するように剣をイスピンへ向けた。
「俺は・・・何もしちゃいない。ただ、たまたま依頼で行ったダンジョンにしあわせのくつを落とすモンスターが居て、たまたまそれを拾っただけだ。上げたのなんか気まぐれだ」
マキシミンは、剣を向ける力さえ無くしたかのように剣を落とした。
そして、その場にへたりこんだ。
「・・・・・・」
イスピンはゆっくりとマキシミンへと距離を詰める。
「ティチエルとかいう箱入り娘に行かせたのだって気まぐれだ、もしかしたら俺が後々恩を着せられるかもしれな━」
パチンと、力無くマキシミンの頬が叩かれる。
叩かれるというより、添えられるというように。
「キミは、バカだよ」
イスピンが顔を伏せる。
「自分だけが危ない橋を渡って、それが格好いいとでも思ってるの・・・?」
イスピンの頬を涙が伝う。
「キミを心配してる人間だって、いるんだぞ・・・っ!」
「イスピン、俺は・・・」
マキシミンが口を挟もうとするのを、イスピンは許さなかった。
「マキシミン、キミは何でそんなにボク達を、ボクを嫌うのさ」
真っ直ぐに、眼を合わせられる。
マキシミンは苦しそうに息を吐くと、
「俺は、おまえが嫌いなんじゃない」
そう言った。
「〝おまえ〟ではなく、お前達貴族が、憎くてたまらない」
自白するように、懺悔するように。
「俺の親父は、お前達貴族に殺された。いや、それはいい。親父はそれ以前に、俺達家族を捨てていたから」
トツトツと、マキシミンは語る。
「前にも話したが、俺達兄妹は世間に認められる事さえなく生きてきた。貴族に逆らった親父のせいで、俺達の扱いはそれこそ、そう、〝ヒトデナシ〟そのものだった。道端に転がる石ころよりも〝要らない〟存在だったんだ」
拳を握り締める。
「それでも何時か、救われるんじゃないかって思ってた」
なんて甘い考えだったんだろう。
「そんな考えを認められる程、世界は優しくなんかなかった。俺は、本当に命がけで働いたよ、自分を、それでも護りたいと願った兄妹を養うために」
それでも。
「裏切られたり、ちょっとしたイジメで殺されかけたり、それはもう苦痛だった。俺はこの世を憎んだよ。でも、俺一人が憎むにはこの世界は広すぎる、だから俺は」
貴族を、金を持ってるヤツらを、俺より少しでも幸せなヤツらを憎悪する、と。
「でも、でもなイスピン」
マキシミンの頬を、悔しさの涙が伝う。
「俺はおまえに出会っちまった・・・おまえのせいで、俺は貴族全てが悪いヤツらじゃないって事を知っちまった・・・」
「マキシミン・・・」
「俺は・・・俺はこれから、何を憎めばいい・・・?生きるための糧だった憎しみを、何に向ければいいんだ・・・」
絶望するかのようにマキシミンは嘆く、だがそれは。
「マキシミン、キミは間違ってる」
「あぁ、間違いだらけだろうよ」
泣きながら自嘲する男の頬を、もう一度、今度は力を、気持ちを乗せて叩く。
バチィィィン!!
「━━ッ」
「ボクはね、マキシミン。ボクはキミのペアなんだよ」
転がるマキシミンを、涙で真っ赤になった瞳で、見つめる。
「憎悪なんか糧にすることない。憎悪を向ける事なんてない。ボクと、一緒に行こうよ」
そう言って、手を差し伸べる。
「だが、俺は・・・」
「ボクはイスピン・シャルルだ。今は貴族なんかじゃない。それに、言ったろう?ボクはキミのペアなんだ」
イスピンが無理矢理、マキシミンの手を掴む。
「ボクのペアがそんなウジウジしたヤツじゃ、今後ボクが困るんだよ」
「なっ」
嫌味に反応するマキシミンを引っ張り起こす。
「それに、ボクらはボクらだけじゃない」

「━━━」
遠くから、何人かの声がする。
「キミだって、それを解っているからこそ皆にプレゼントなんかを渡したんだろう?」
イスピンに引っ張られ、歩きだす。
「・・・ふん」
マキシミンは意地悪く顔を背けるが、心はもう落ち着いていた。
「さぁ、帰ろう?このままじゃ本当に凍死しかねないからね」
イスピンも、笑っていた。
「なぁ、イスピン」
「何?」
「一応、ペアだから、な」
そう言って、マキシミンはイスピンの帽子に、綺麗な宝石の飾りを留めた。
「・・・・・・」
「・・・・・ンだよ」
イスピンは驚いたがすぐ、
「ありがとうマキシミン」
「・・・・・・皆にやったんだからおまえにもやらんと不公平だからな」
「全く、素直じゃないんだから」
どことなく幸せそうな二人は、不器用に笑った。

行く先は、仲間の元。
今まで一人だった子供達が、やっと集まる事を約束された場所。
優しい光が在る場所へ、二人は歩んで行く。

                  ☆★MerryMerryChristmas★☆
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by kujikenjousiki | 2005-12-23 01:05 | 小説

ネタ話番外編その2ー1 ~XmasなTalesWeaver~

此処は港町ナルビク。
貿易が盛んで寄る人間も多く、時には海賊船でさえ停泊する。
その港で、一人の女が積まれた貨物の上に座り、寒さを堪えていた。
彼女の名はミラ・ネブラスカ。
〝紅い射手〟と呼ばれる海賊団の女船長である。
彼女は養父を目の前で殺害されたという過去を持ち、その仇である〝青いガレー船〟を追い求めている。
ナルビクに寄港したという情報を得た彼女はすぐさま此処に降り立ったが、どういう理由か団を捕縛され彼女自身も王室所属ギルド〝アクシピター〟に身を隠す事になった。
だが、その不幸も彼女にとっての真になりつつある。
「寒い・・・」
吐く息が白い。
現在の暦は12月24日。
もう真冬もいいところだ。
普段なら当に住処に戻り、ぬくぬくと暖を取っている事だろう。
が、今年はそうもいかなかった。
「おっせぇなー・・・まだこないのかよあいつら・・・」
服のデザインにより、外に張り出した肩を摩擦で温める。だがそれも束の間だろう。

「━━━ッ」
遠くから、元気な声が聞こえる。
やっときたか、と彼女は冷え切った体を動かし、貨物の上から飛び降りた。
「ミラさーん、遅れちゃってゴメンねー!」
「遅いんだよ、ったく」
文句を言いながらも、ミラはこちらを目指し向かってくる二人を笑顔で迎えた。

元気に走り寄ってくる金髪の少年、名をルシアン・カルツという。
ミラと同じく、二人ともアクシピターに所属している。
偉大な先祖に憧れ、未知を人生とする冒険家への道を迷わずに突っ走ってきた、純真無垢な少年である。
だが、その冒険には条件がつけられており、アクシピターでトップの実力を備え、認められ無ければ大陸随一であるカルツ財団の後継ぎになるという、将来を賭けた勝負をしていたりする。

そして、その後を少年を常に護るかのように歩むもう一人の少年、名をボリス・ジンネマン。
幼き頃より〝不幸をもたらす子供〟と囁かれ続けた彼を、護り続けていた優しい兄がいた。
だがその兄も、彼に封印された剣〝ウィンターラー〟を預け、失踪してしまう。
兄を探すためにだけに彼は強くなり、心を閉ざしたまま旅に出た。
旅先で助けたルシアンの父親に、ルシアンの護衛剣士を任されて以来、共に行動する仲間となった。
心を閉ざしたボリスを救ったのはやはり彼で、今の自分があるのはルシアンのお陰だという事をちゃんと理解し、親友である彼を命を捨ててでも支えるという決意を持ったとても同い年には思えない少年だ。

「すいません、ミラさん」
苦笑しながらボリスは言う。
「まぁいいんだけどさ・・・何だってこんなに遅れたんだい?」
「いえ、途中で彼等と鉢合わせしまして」
「なんか面白そうな話になりそうだからさ、僕が呼んだんだー」
楽しそうにルシアンが笑う。
そして二人は更に後方から歩いてくる四人組にミラの視線を向けさせた。
「あいつらか・・・まぁ役には立ちそうだな」
「でしょでしょ?僕って冴えてる~♪」
「まぁ・・・実力は確かでしょうが」

彼等はアクシピター所属ではなく、対立ギルドである〝シャドウ&アッシュ〟の元構成員達だ。
「こんにちはミラさん。お話ってのはまさかボクをデートのお誘いだったりします?」
紅い髪をした大柄な男がそんな軽口を叩く。
彼の名はシベリン・ウー。
過去の記憶を全て失っているため、今は亡き養父に授かったこの名で通している。
その槍の名手ぶりから、闇の世界では〝真紅の死神〟の異名を受け、恐れられている。

「ハッ、おまえをデートに誘うなんざよっぽど見る眼がないんだなこのオバサンはよ」
憎たらしげに嫌味を吐くこの男はマキシミン・リフクネ。
裏の世界を跋扈するシャドウ&アッシュでも、その我侭と傍若無人な態度のお陰で特に問題児だった男だ。

「はいはい、そこまでにしなさい二人とも」
二人を諌める彼・・・いや、彼女はイスピン・シャルル。本名はシャルロット・ビエトリス・ド・オルランヌ。
ハンサムな少年のような外見をしているため、それを利用して男と、偽名を名乗っている。
彼女は実はオルランヌ公国のお姫様だったりするのだが、国を乗っ取られ、命を狙われる身となってからは手段を選ばずに己が実力で生き抜く武闘派御姫様だ。マキシミンとペアなのだが、その仲は実に険悪である。

「イスピン、バカに何を言っても無駄」
クールに突っ込む彼女はナヤトレイ。本名は無い。
苗族という、奥地に住まう一族の間で、神の申し子とされた者がその名を冠する。
彼女はその苗族のたった一人の生き残りで、シベリンにその命を救われて以来、彼のためにその身を呈している。
上記の通り、シベリンとペア。

「毎度毎度バカ騒ぎが好きな連中だね・・・。まぁとにかく皆話を聴いてくれるかい?」
ミラは溜息を吐きながら話始めた。
「くだらねぇ用じゃねえだろな、オバサン」
「誰がオバサンだオラ!一発くれてやんぞ!?」
話始めるどころか即逆鱗だった。
「おーおー上等だ、かかってこぐふぁ!」
戦闘態勢に入るマキシミンをイスピンが殴りつけて黙らせた。
「すいません、ウチのバカがどうも・・・お話を続けて下さい」
「ったく、女性に対してなんて口の利き方すんだおまえは」
悶絶しているマキシミンをシベリンが引っ張り押さえ込む。
「あー・・・まぁとにかく話すよ」
コホン、と咳払いし、今度こそミラが話を始める。
「今日は24日、つまりクリスマスなワケだが」
「うん、サンタさんが来る日だよね!」
瞳を輝かせてルシアンが声を上げる。
「そう、それでだな。今年でティチエルも17歳。そろそろあいつにもサンタクロースが来なくなる頃だ」
そう、このアノマラド大陸にはサンタクロースが実存する。
サンタクロースにはそれぞれ番号があり、担当地区を分けて行動する。
良い子か悪い子を選別するのも、トナカイの眼があれば可能らしい。
「アイツは、リンの一件以来元気を無くしているからさ、どうにかして喜ばして上げたいんだ」
その一件は皆の知る処である。
ティチエルと呼ばれた少女は、大切な人の一人を目の前で死なせてしまったのだ。
「皆、手伝ってくれないか?」

ティチエル・ジュスピアン。
ミラのパートナーであるその娘は、彼女の母親であるシュニカー・ジュスピアンの命と引き換えに、絶対の保護契約を結んだ。
その契約内容は、〝絶対幸運〟。
彼女の身に起きる災厄は、その契約により必ず彼女を破滅から救う。だが、その契約は彼女自身を護るためのものであり、どんなに近しい身の人間であってもその幸運の範囲外なのだ。
そして、彼女は今その範囲外の不幸により、気を沈めていた。

「うん、勿論だよ!」
ルシアンが真っ先に頷いた。
「ティチエルは大事な友達だもん、あんな辛そうな顔のままでいさせたくない」
本心からそう思っているからだろう。
その顔には何時もの笑顔と一緒に、誠実さがあった。
「えぇ、俺も彼女のために何かして上げられるのであれば」
ボリスも頷いた。
彼にとって、彼女はルシアンと同じぐらい大事な仲間なのだ。
「うん、ありがとう。・・・その、おまえらはどうだ?頼めた義理じゃないのは解ってはいるんだが」
ミラはイスピン達に視線を向けた。
「勿論、俺達も手伝わせて貰いますよ」
ニカッとシベリンが笑って答える。
「はい、ボク達も彼女には恩があるしそれに」
「彼女も〝審判者〟。彼女を悲しませたままでいるのは、私の使命に叛く事になる」
イスピンとナヤが続けた。
「・・・・・・・」
だが。
「俺は嫌だね」
マキシミンは一人、そう言い放った。
「そんな金にならない事に俺は興味なんざねぇ。そういうのはおまえら善人様だけでやってくれ」
スタスタと一人歩き去る。
「マ、マキシミン、本当にキミは何もしない気かい?」
イスピンはそう声をかけるが、彼は振り向きすらしなかった。
「ま、アイツにそんな期待してないさ」
場を和ませようとミラが話を変えた。
「とにかく、皆協力してくれるんだな?」
勿論、と皆が頷いた。
「それで、プレゼントって何を上げる気なんですか?」
ボリスが尋ねた。
「それがだな、〝しあわせのくつ〟ってのを知ってるかい?」
〝しあわせのくつ〟、それはこの世の幸運を手にした者のみが着用できるという、それはそれは希少な靴だ。
「名前だけは知ってるけど・・・でも見た事もないし、何処にあるのかさえ誰も知らないって話だろう?」
シベリンが疑問を口にする。
そう、しあわせのくつは着用者が限られているという理由も伝説の一つだが、そもそもその存在自体が伝説と同程度なので、殆どの人間がお眼にかかれるか、いやそもそも存在さえ知らずにいるのが普通であろう。
「それがだね、こんなのを見つけたんだ」
ミラが一冊の本を取り出した。
「あ、それお祖父ちゃんの!!」
ルシアンが真っ先に気づいた。
「そう、これはルシアンの爺さんの書いた冒険日誌さ」
過去、偉大な功績を残した大冒険家ラグランジュ・カルツはその足跡を自分の日記に記し続けた。
この日誌を見た者が自分と同じ道を進み、更なる未踏を踏み越えて往けるために、と。
「その数ある日誌の中でも、これにはしあわせのくつとその在処について詳しく書かれているらしいんだ」
「では、その冒険日誌の通りにボク達が進めば・・・」
「そう、しあわせのくつが手に入るかも知れない」
ミラはニヤッと笑うと本を開き、皆に見せた。
「アタシには読めない言語が多くてね、大陸に馴染んだおまえらなら読めるかと思ってさ」
皆が本を読み解こうとするが、中々そう上手くはいかないようだ。
「すいません、どうもこれ筆記に方言や訛りまでそのまま記されているようで、まるで暗号です」
ボリスを始め、イスピンやナヤ、シベリンもお手上げといった具合だ。
「解ったよ皆!」
だが、たった一人理解できる者がいた。
「本当かい?ルシアン」
「うん、これカルツ家の秘語も含まれてるから、他の人達には理解できないのも書いてあるんだ」
「秘語ねぇ・・・まぁいいや、それで?何処にしあわせのくつってのはあるんだい?」
シベリンが問う。
「竜泉卿から入れる〝黄泉路〟だってさ」
「へー、黄泉かぁ・・・黄泉・・・うん、黄泉・・・か・・・」
イスピンが軽く口にしながらも、それを否定するように連呼する。
一同の顔が段々青くなってきた。
「な、なぁ・・・ルシアン、その黄泉路って・・・まさか地獄とかあの世とか・・・そっちじゃないよな・・・」
ボリスが苦々しく笑いながら尋ねるが、
「えーとね、秘境の奥に住まう者達のー・・・現世から幽世へと続く道筋だってさ。ねぇねぇ、幽世って何?」
気づけば、ルシアンとナヤ以外は暗鬱な雰囲気に呑まれかけていた。
「あー・・・まぁ、つまりはだな、そこに行くと死んじゃうかも知れないトコロって事だ・・・」
「へー、あ、それでね?その黄泉路に住む黄泉の使者っていうモンスターが持ってるんだってさー」
まさか死にに行けと・・・と皆の顔はますます暗くなる。
「でも、ラグランジュお爺さんは生きて帰ってこれたんでしょう?」
何時もの、無表情なのかボーッとしてるのか解らない顔のまま、ナヤが聴いた。
「えっとね、あ、うん」
『どうやって!?』
うつむいていた全員が大声を上げてルシアンに詰め寄った。
「現世での朝日が昇る時間がおとずれると、まだ生きている人間は追い出されちゃうんだってさ」
「ふむ・・・なら安心・・・かな?」
「ま、まぁ閉じ込められるってワケじゃないんなら」
なんとか生き延びる術を見つけて、暗鬱な気分に光が射した。

                          ◆

此処は黄泉。
死した者が向かう、世の果てである。
亡者が蠢き、亡霊が踊る。
そしてその亡霊を司るのが使者である。

「━━ッ!」
竜泉卿から黄泉路に続く階段を下り、ついに一同は黄泉へと踏み込んだ。
そして同時に身を襲う違和感。

此処は黄泉。
死した者達が集まる場所。
そこに命ある者が在って良い道理などあるものか━━

『ハァァァッ!!』
シベリン、ボリスが気勢を挙げる。
己の身を怒りに焦がし、身体能力を向上させる〝バーサーク〟
魔力による契約で、己の体力を生贄に一時の超人的な力を受ける〝紅き月の盟約〟
二人が本気になった証拠だ。
「僕だって!」
ルーンを剣で中空に記し、その身に刻み焼き付ける〝ラグランジュ神速剣〟
「ふん、負けてられないね」
ミラも〝気合〟を入れる。
「聖オルランヌの女神よ、ボクに力を!」
イスピンが呪文を唱えると、体内に光が宿ったかのように光輝く〝オルランヌの加護〟
「誰も私に触れる事はできない・・・」
風がナヤトレイの周りを吹き荒れる。
舞い上がった木の葉がナヤトレイの絶対領域を隔す〝木の葉隠れ〟

準備は整った。

「さぁ、なんとしても使者を倒してティチエルにクリスマスプレゼントを持っていくよ!」
『応!!』

                          ◆

亡霊の数は無限と言えるだろう。
なにしろ、この世に命ある限り彼等の数は減る事などないのだ。
そしてその亡者共は、命ある彼等を妬み、嫉み、憎しみ、その命を奪い取ろうと攻撃してくる。
「あぁっ、もう!さっきからウジャウジャと━━」
右手に鞭、左手に鋼鉄製のカード。ミラはその身軽さを持って攻撃をかわしながら、次々と群がる敵を蹴散らしていく。
だが━━
「しまっ」
亡者の影から、異物を排除せんと襲いかかる使者が雷を放ってきたのだ。
直撃する。
そう確信し、身構えた。
が、衝撃はやっては来なかった。

「レディーに傷つけさせるワケにゃーいかねーな」
シベリンはミラの盾となり、その雷をモロに浴びたのだ。
「バッ、おまえなんて事!」
「ミラさーん、ナメちゃいかんですよー?この真紅の死神を」
余裕綽々の笑顔を見せると、痺れているはずのその体で、
「紅龍登天ッ!!」
群がるモンスターを一撃で灰に還した。
そう、彼の体を護るのは彼の鍛えぬいた肉体〝ハードスキン〟
多少の攻撃ならば、回避の必要さえないぐらいの防御力を誇る。
「ちっ、またハズレか」
苦笑しながらシベリンは言う。
「ふん、余計なお世話だ」
ミラはパンパンと服についた埃を払うと毒づいた。
「でも、一人で突っ込んでいくのもどうかと思いますよ?」
やれやれと言うようにシベリンは首をすくめる。
「じゃ、どうする?」
「そうですねー」
構えなおしたミラの背に、自分の背中を預ける。
「こうした方が幾分効率的かと」
「それもそうかな」
二人は笑う。
自分達を取りまく、亡者達を嘲るように。
「それに今は」
「アタシらは仲間だしな」
二人は同時に駆け出した━━

                          ◆

「うーん、皆どこいっちゃったんだろねー。迷子かな?」
ルシアンがのんびりと笑う。
「でも、こんな危ないとこだなんて、居るだけでドキドキしちゃうよ僕」
本当に楽しそうに、言う。
「・・・・・・・」
その横を無言で歩いているのはナヤトレイだ。
皆と散り散りになってから、無言で歩を進め敵を倒すナヤと一方的に話続け話ながら敵と闘う度に大騒ぎするルシアン。
そんな凸凹コンビでお贈りしております。
「でも使者って一杯いるんだねー、何匹も倒したけど、全然靴なんか持ってないや。なんか持ってるヤツは目印とかないのかな?例えば全身が黒じゃなくてピンクとか━━」
ナヤトレイが一早く気づき、ルシアンを押し倒し雷を回避する。
ルシアンは喋り続けている状態で転ばされたので舌を噛み悶絶状態だ。
「━━━っぁ━ひひゃが━」
ナヤトレイはそれに構わず雷が飛んで来た方向に〝心〟を連射する。
神速で飛ぶ刃が使者の顔と胴体を蜂の巣にした。
≪SYUUGYAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!≫
この世の言語ではない叫びを上げながら、使者は霧散した。
「・・・コイツもハズレ」
ナヤトレイは悶絶しているルシアンを無視しながらそう告げた。
「ひょ、ひょう・・・ひゃんへんひゃっはへ・・・」
ルシアンは涙眼になりながら立ち上がると、彼を無視してスタスタ行こうとするナヤトレイになんとか追いついた。
「うぅ、そんな急がなくっても~」
「時間がないわ、もうすぐ夜明けよ」
ナヤトレイはそうクールに言い放つと、振り向き様にまたもや〝心〟を撃ち放った。
「うひゃあああああ!?」
ルシアンの体スレスレの位置を通して。
「ア・・・アブ、アブ・・・」
イヤな汗で背中を濡らしたルシアンは、たった今葬られたばかりの使者を見ようと後ろを振り向く。
死に切っていない使者が、憎悪を眼に宿しながらその帯電した腕をナヤトレイの背中に伸ばしているところだった。
「危ない!!ナヤ!!」
叫ぶが、流石のナヤトレイも反応が遅れる。
倒したと思って油断してしまったのだ。
そして、雷は光速━━

「召雷剣ッ!!」
〝ラグランジュ神速剣〟によって反射神経を超人化したルシアンは、即座に雷の方向を見極めると、〝召雷剣〟を放ちぶつける事で相殺した。
そして、予備動作0で放てる最速の遠距離攻撃〝飛連破〟を撃ちつける。
「ナヤ、今!!」
ナヤトレイは頷くと、一瞬で間合いを詰め〝影分身〟で使者を霧散させた。
「ふぅ・・・危なかったね」
冷や汗を袖で拭きながらルシアンは明るく笑う。
「・・・・・・」
また、無言でナヤトレイは歩を進める。
流石にカチンときたルシアンは、少々不貞腐れながら言う。
「あのさーナヤ、ナヤはもう少し愛想ってものを」
「ありがとう」
突然の言葉に驚き、ルシアンの表情が凍る。
「・・・・・・へ」
「貴方は無駄が多すぎるわ。それに、声も大きすぎる」
少しは冷静という言葉を学びなさいと、ナヤトレイは言った。
「あのー・・・それはお礼を言っているのか説教してるのか・・・」
ルシアンはビクビクしながらナヤトレイに尋ねるが、ナヤトレイはまたも歩き出す。
「あ、あのー・・・」
「でも、そういう元気な人がパーティに居ないと、寂しいのかも知れないわね」
ナヤトレイはそう言いながら、ルシアンにほんの微かな笑顔を向けた。

                          ◆

「ふう・・・盟約を使いすぎた・・・かな?」
ボリスは体力を早々に使いきり、そこらに転がる岩の上に座りこんだ。
「まったく、いくらその能力が強くても飛ばしすぎですよ、ボリスさん」
苦笑しながらイスピンも正面の岩に腰を下ろす。
「はは・・・どうしてもルシアンが心配でね。アイツ眼を離すとすぐピンチになるから」
「大丈夫ですよ、今はボリスさんだけじゃなくて、私達だっているんですから」
その言葉に、ボリスは頷いた。
「あぁ、ありがとう━━それでも俺には、どうしても〝現在〟が信じられないんだ。あ、いや何でもない話なんだが」
ポロっと漏らした言葉を、ボリスは後悔と共に押し流した。
「聴かないでおきます。その方がよさそうですから」
イスピンは笑うと、そう告げた。
ボリスもそうだが、イスピンも対人に於ける会話の機微にはかなり鋭いところがある。
その直感が、今は聴いても仕方が無いと告げるのだ。
「それに、今ではなく、何時か。そんな時が本当に来るか解らないですけれど、何時か貴方は私達全員に話してくれる。そんな気がするんです」
何時か心を開いてくれる時が。
彼女はそう言った。
「そう・・・かな」
ボリスは思案した。
だが心に広がる闇は、未だ哀しみに満ちている。
「うん、それでも」
それでも、何時の日にか、心に光が射す時が来るのならば━━
「貴方達になら、話せるような日が来ると思うんだ」
闇の中、俺に手を差し伸べてくれたルシアンが心を許した貴方達なら。
「さて、少しは回復したな」
ボリスは柄を握る両手に力を込め、
「それにどうやらのんびり話しをするのもここでは無粋なようです」
イスピンもレイピアで虚空に加護のルーンを刻む。
そして、立ち上がりと同時に各々の技を撃ち放った。
「スマッシュクラッシャー!!」
「カウンタースピア!!」
ボリスを中心とした地盤が砕け、揺れ、爆破する。
その爆発から逃げる使者を、亡霊ごとイスピンが串刺しにする。
「では、今一度仲間のためにプレゼントを探しだしましょう」
「あぁ、彼女の泣き顔はもう見たくない」
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by kujikenjousiki | 2005-12-23 01:01 | 小説

ネタ話番外編その1~ NAKOTTO冒険記

Xmasも近いその日、NAKOTTOはTalesWeaverというネットゲームの世界にINした。
降り立った街の名前は港町のナルビク。
もう冬の季節となったこの世界にも、雪が淡く降っている。
キャラの名前はミラ・ネブラスカ。
熱い男気一本気な燃える海賊頭領の女キャラである。
鞭を片手にダンジョンを走り回る海関係ない女王様。
今日も楽しくいきまっしょぃ! と気合を入れて街を散策していると、NAKOTTOのハニーである〝シャンテバニラ〟がNAKOTTOに声をかけた。
キャラの名はイスピン・シャルル。
国を乗っ取られ、命を狙われ続けるお姫様。
なのに魔法に長け、剣術がハチャメチャに強いというのはどこの豪族か。

シャンテバニラ:「ちゃぁぁぁぁぁww」

シャンテバニラは即座に会話モードをクラブ員のみに聞こえるモードに変換すると、叫んだ。
NAKOTTOも即座に変換し、

NAKOTTO:「はにぃぃぃぃぃぃww」
NAKOTTO:「∟□∨Ε...φ( ̄▽ ̄*)ポッ」
シャンテバニラ:「(。-_-。)ノ☆・゜:*:゜∟□∨Ε」

なにやらもう挨拶とゆうか愛宣言というか。
そんな具合で二人は和気藹々と挨拶(?)を交わした。

シャンテバニラ:「今日からXmasイベントだねーw」
NAKOTTO:「('-'*)(,_,*)('-'*)(,_,*) ウンウン」
NAKOTTO:「楽しみだにゃぁぁぁw」

そう、NAKOTTOは未だ知らなかった。
去年のイベントの使い回しという駄目な意味で大胆なイベントという事ヲ。

シャンテバニラ:「今日は早めに早めにINして帽子がんばって集めたんだけど、全然いいものでないの(´;ェ;`)」
NAKOTTO:「Σ('◇'*)エェッ!?」
NAKOTTO:「(´;ェ;`)ウゥ・・・」

このXmasイベントというものは、サンタクロースの大事な物を奪った〝ユキダルマン〟というモンスターをバッタバッタと薙倒し、その奪われたアイテムをGetBackersするという、なんとも強引かつ、乱暴、そして子供には見せてはいけません的な暴虐の殺戮イベントである。
〝ユキダルマン〟が、サンタクロースの仕事を手伝うのが嫌になって、サンタクロースの必需品であるサンタの帽子を盗んで逃げる、という内容なのは分かるのだが。
サンタクロースが帽子を被る事によって高速移動が可能になるから帽子が必要という理由は、トナカイいらなくならないかソレ?という大問題を勃発させかねないのでこの際無視を決め込むに限るだろう。うん。
その上、盗まれた帽子の数は膨大で、ほぼ無限とも言える(期間中のみだが)。
その帽子を5個集める事によって、サンタクロースはプレイヤーに暖かい箱という宝箱をプレゼントしてくれるのだが、中身はランダム且つ、重宝する物が出る確率はあまりに低い。
必死こいて集めてくれたプレイヤーに対して、美味い棒一本分の値段の赤い葉っぱや緑の葉っぱといったゴミを投げつけるサンタクロースも如何なものか。

シャンテバニラ:「トナカイ服がぁ欲しくてぇ、もう20箱も開けたんだけど、出ないのぉ(´;ェ;`)ウゥ・・・」

もう彼女の声は涙声だ。
それはそうだろう、箱が20個ということは、帽子を100個集めたという事である。
流石に一匹の〝ユキダルマン〟が必ず一つの帽子を落とすというワケではないので、かなり苦戦したハズだ。
トナカイ服というのは、文字通りトナカイのきぐるみだ。
だが、ナメたものではなく、着用者には神速の走りを提供するという優れ物である。
NAKOTTOは想像した。
愛するハニーが可愛らしい着ぐるみを着て、はにかんだ笑顔を向けてくれるその様を。

NAKOTTO:「・・・・・・・・」
シャンテバニラ:「はにぃと御揃いしようと思ってぇ、がんばったんだけどダメだったよぉ(´;ェ;`)ウゥ・・・」
NAKOTTO:「・・・・・・はにぃ」
シャンテバニラ:「?」
NAKOTTO:「ちょっと舞ってて!!!」

あまりの興奮に己を抑えられず、誤字まで噴出した。

NAKOTTOはシャンテバニラにそう言い残すと、すぐCC〝キャラクターチェンジ〟を行った。
操縦するキャラクターはティチエル・ジュスピアン。NAKOTTOの名前IDがにゃこっとにチェンジングナウ。
脳みそがどこぞのユウコリン以上の幸せと惑星が詰まってる素敵魔法少女だ。(っても設定では17歳)
降り立った場所はクラドフリーマーケット。
山間に囲まれたこの街は、人気の少ないひなびた温泉街のような場所である。
だが実際には温泉など無く、あるのは最強の殺戮兵器に守護された宝石鉱山だけだったりもする。
データが変わり、クラブもにゃこっとが所属する〝FREIHEIT〟の面々が姿を見せる。
この場所は、暇なFREIHEITのクラブメンバーが溜まり、なにがあるというわけでもなくチャットに興じる事が多い。
Inしたにゃこっとを見た者が、続々と声をかけ、その場に居ない者もその声に反応し、挨拶する。

Kinntarou:「お、にゃこだ」
バズビィ:「へっぉぅ」

この二人の扱うキャラはシベリン・ウー。
火力最強の名を欲しいままにする、槍使いの青年だ。闘いの際に敗北を喫し、記憶を失ってたりもするが、とてもそうとは思えない頭の使い方をする。

×ひろ×:「にゃこさんへっぉー」
楼蘭:「へろー」

×ひろ×のキャラはボリス・ジンネマン。行方不明の兄を探しながら、封印された剣を手に闘う不遇の主人公(らしい)
強さは平均より上なので、目立とうとすれば出来なくもないが、技が技なので文句を言われるのが関の山というまさに不遇のキャラである。でもやっぱり強いんじゃないかなーと思ったり思わなかったり。自虐する人が多いのが難点。

楼蘭のキャラはルシアン・カルツ。偉大な冒険家である祖父に触発され、自分もこうなろうと夢を見続ける夢想家の少年。だが、その実ボリスにおんぶにだっこなので性格、知能ともに進歩なし。常にポジティブシンキンッなのが救いっちゃ救いである。だが、夢のために自分がこれから受け継ぐはずの財産全てを捨て去っても駆け抜けるその姿は偉大かも知れない。ゲーム内では最弱との事。

にゃこっと:「ちゃー^^」

どうやら今INしているのはこの4人だけのようだ。
挨拶もそこそこに、にゃこっとは即座に狩りを開始した。
狙いは無論〝ユキダルマン〟
愛する者の愛らしい姿拝見のため、この命全て燃やして殲滅しつくしてくれる!!!
そう心に刻んだにゃこっとは、自慢の遠距離攻撃を駆使して高速で逃げ回る〝ユキダルマン〟虐殺戦の地へと踏み込んだ━━

                           ◆

約5時間後。

にゃこっと:「ふ・・・ふふふ・・・」

集めに集めた帽子130個を、あったかーい箱という名のパルプンテボックスへと交換する。
その数26個。
トナカイ服は出やすいと中々の評判なので、一個くらい出るだろうと出す気マンマンでにゃこっとは開封を開始した。

ポーンポーンポポポーンと景気良く箱が花火と共に開け放たれる。
そして、次々とアイテムスロットに所持していなかったアイテムが増えてゆく。
レッドハーブ、レッドハーブ、レッドハーブ、グリーンハーブ、バイオレットハーブ、レッドハーブ。
にゃこっとは心の中で、大丈夫、まだ20個ある。ホントお願いしますサンタさんゴルァ!!と喧嘩腰に嘆願しながら開け続ける。
そして残り3個となった頃、アイテムスロットには数枚のレッドハーブ、1個のインクリスクロール(これは微妙に嬉しかった)、4枚のグリーンハーブ、最初から所持していた数字に吸い込まれた紫葉や、弾性ローション(大)等の姿が在った。
ふとした拍子に出たトナカイの角を、憎しみで濁った瞳で凝視したその瞬間をにゃこっとは決して忘れないだろう。

そして、最後の3個ににゃこっとは手をかけた・・・!

一個目、うさぎの尻尾。

にゃこっとは握っていたマウスを握り潰しかけた!

二個目、トナカイ・・・・・の角。

にゃこっとはPCの前から立ち上がると窓を全開にし、かっくらっていた黒エビスの缶を全力で放り投げた!!

三個目、・・・・トナカイ服。

にゃこっと:「やったああああああああああああ(〃∇〃) てれっ☆」
にゃこっと:「(´;ェ;`)ウゥ・・・」
にゃこっと:「ヾ(*ΦωΦ)ノ ヒャッホゥ」
kinntarou:「お?なんだなんだ?」
にゃこっと:「トナカイ服が出たのぉぉぉぉ(´;ェ;`)ウゥ・・・」
kinntarou:「おーw」
×ひろ×:「おめ!W」
楼蘭:「クレ」
バズビィ:「おめっさーん」

次々と皆からの祝福の声が上がる。(若干一名微妙だが)

にゃこっと:「じゃあじゃあ、NAKOTTOになってくるぅーw」
×ひろ×:「いてっらしゃー」
kinnrtarou:「いてらw」

気分は最高潮だ。
最早自分を止められる者などいない。後は愛するハニーに服を装備させ、可愛いその姿を拝見するのみ・・・!
にゃこっとはキャラクターチェンジをしようとし、その格好で硬直した。
まてまて、ハニーは何と言っていた・・・?
記憶を手繰る。

≪シャンテバニラ:はにぃと御揃いしようと思ってぇ、がんばったんだけどダメだったよぉ(´;ェ;`)ウゥ・・・≫

・・・・Σ('◇'*)エェッ!?
Σ('□'*('□'*('□'*('□'*)ガビーン!!
一つじゃダメだあああああああああΣ(ёロё)ホエー!!

にゃこっとの意識がキャラクターチェンジを即座に拒否した。
一つでは足りない・・・ハニーを喜ばすにはもう一手。そう、もう一着のトナカイ服が必要なのだ・・・!

楼蘭:「ん? にゃこどうした」
にゃこっと:「・・・・・・・ねぇねぇ」
kinntarou:「む?」
にゃこっと:「誰か、トナカイ服持ってにゃい?」
kinntarou:「俺持ってるけど?」

にゃこっとの眼がギラリと光り輝いたのを、にゃこっとの家のにゃんこズ以外気づく由も無かった。

にゃこっと:「あめしゃーん♪」
kinntarou:「お?なんだなんだ?」

kinntarouは我が身を襲う微かな悪寒に悟った。
今俺は、狙われている・・・!と。

にゃこっと:「そのトナカイ・・・頂戴(〃∇〃) てれっ☆」

にゃこっとは色仕掛けをした!
Kinntarouは青ざめた!恐怖ゲージが80%上がった!

にゃこっと:「もちろんタダとは言いませんっ!」
kinntarou:「お?」
にゃこっと:「100kで売ってくだしゃい!(o^-')b グッ!」
kinntarou:「ちょ、待て待て!!w」

最早kinntarouに許された行動は一つ・・・。

kinntarou:「逃」

kinntarouは逃げ出した!!

にゃこっと:「逃がすかぁぁぁぁぁ!!!!」

その約5倍の速度でにゃこっとはヾ(*ΦωΦ)ノ しながらkinntarouの移動を先回りする。どうやらにゃこっとの願いの前ではゲーム設定などBOTツールでも敵わないぐらい融通の効く設定に変わるようだ。
Kinntarouは気づいていた。
にゃこっとの発言が冗談でも何でもない本気と書いて〝運命に従え!!〟と読むぐらい大マジだという事に。

Kinntarou:「ふふ・・・ならば仕方あるまい・・・」

恐怖に怯える心を何とか鎮めながら強がりを吐く。
今俺に残っている最後の逃亡手段・・・それは!!
kinntarouは秘蔵のアイテム〝混乱9バインドストーン残り1回〟を使い逃避を慣行した。
どうやらそのまま混乱10Fへと逃亡するつもりらしい。
にゃこっとは忌々しく舌打ちすると、kinntarouを追いかけようとワープゲートに走りこもうと━━

その時、愛するシャンテバニラから1:1が。

シャンテバニラ:「はにぃぃぃぃ(〃∇〃) てれっ☆」
にゃこっと:「はにぃ、ちょっと待っててね?すぐトナカイ服持って(奪って)行くから・・・」
シャンテバニラ:「(ノ´▽`)ノオオオオッ♪」
シャンテバニラ:「はにぃも出たんだーw」
にゃこっと:「・・・も?」
シャンテバニラ:「('-'*)(,_,*)('-'*)(,_,*) ウンウン バニラも出したんだよ(〃∇〃) てれっ☆」
にゃこっと:「(ノ´▽`)ノオオオオッ♪ おめでとーww」

そして、にゃこっとの頭の中で歯車がカチ合う。

にゃこっとが1個所持。
ハニーが1個所持。
一緒に装備。
お揃い!!

にゃこっと:「解決したのでNAKOTTOになってくるぅ(〃∇〃) てれっ☆」
×ひろ×「お、今度こそいってらっさいw」
バズビィ「いってr-ん」

にゃこっとはケータリング失敗の恐怖など微塵も考えずに送信し、すぐさまNAKOTTOにチェンジした。

NAKOTTO:「ただいまーw」
シャンテバニラ:「おかえりなさいヽ(〃^・^〃)ノ チュッ♪」
NAKOTTO:「それじゃ一緒に装備して、SSとろっかw」
シャンテバニラ:「うんw」

装備をしても格好が変わらない事にNAKOTTOは憤慨したが、ハニーが凄く嬉しそうなのでそれで全てを良しとした。

シャンテバニラ:「あ、そだ」
NAKOTTO:「うん?」
シャンテバニラ:「装備取りかえっこしよw」
NAKOTTO「(ノ´▽`)ノオオオオッ♪」

補正など気にせずに、二人はトナカイ服を交換し、お互いの出した服をプレゼントした。

NAKOTTO:「今年のイベントは、成功だねw」
シャンテバニラ:「うん(〃∇〃) てれっ☆」

二人は幸せそうに笑った。
でもさりげなく、もうちょっと良いイベント考えて欲しーなーとか考えながら。

                           ◆

おまけ。

Kinntarou:「あれ?にゃこは?」
バズビィ:「んあ?とっくにキャラチェンしたぞ?」
kinntarou:「( ̄□ ̄;)」

その油断がいけなかった。
なにしろ、此処は混乱10。
ゲーム内で最も危険極りない狩場の一つである。

kinntarou:「グワー・・・・orz」

その日、無駄骨食ったkinntarou君は溜まりに溜まったXP70万の状態で即死した━━合掌(´人`)南無南無


※TalesWeaverではPKされようとモンスターに殺されようと身ぐるみ剥されたりとかはありません!
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by kujikenjousiki | 2005-12-16 02:26 | 小説

封印

その日、魔術国家アブロサムは王を失くした。
たった二人の異人によって。

シュシュバルツァは二人を震える歓喜で出迎えた。
なにしろ、全滅という未来さえあったかも知れない国を、この二人は何事も無かったかのように救ったのだ。
王は涙を流しながら再開を喜び、そして、〝英雄〟二人に心からの礼を尽くした。
だが、二人は少々戸惑った顔をして、我々は約束を護っただけだと言ったのだ。
それに、友の危機を救うのに理由も礼も要らないだろう、と。
そしてその言葉に、やはり王は泣いてしまった。

戦争から数ヶ月経ったシュシュバルツァでは、なんとか再興の目処が立っていた。
アブロサムの攻撃を集中的に受けた城下町も、ようやく活気と元の姿を取り戻し始めている。
〝英雄〟と称された二人は、快く復興の手伝いをし、時には次に何かあった時のために軍を編成し、国を護りたいと志願してきた兵士達を鍛えていた。
世界中のありとあらゆる武術から、魔術まで。
王には、秘奥である禁術をも学ばせた。
人々から慕われ、尊敬され、愛された異邦人は既に、国の一部になっていたのだ。

数年の後に、完全に復興を遂げたシュシュバルツァについに二人は住む事にした。
なぜなら、二人の傍には、それぞれの愛しい家族が出来ていたのだから。
王にもまた、後継ぎが生まれ、国中が新たな未来を祝福した。

だがその幸せもまた、恒久のものでは有り得なかった。

アブロサムの王にも、後継者は在ったのだ。

                          ◆

後継者である王子は、復讐に燃えていた。
幼き日に殺された父を、息子である彼は愛していた。
例え誰に悪逆非道と罵られようと、彼にとっては誇り高き父であったのだ。
故に、幼き彼に伝えられた父の敗北は、彼にとっての哀しみであったし、その後の年月が哀しみを憎悪へと変貌させるのもまた運命であったのかも知れない。

アブロサムは魔術国家だ。
大陸でも有数の力を所持した軍事国家。
その力を以ってすれば、できぬ事があろうはずもないと王子は慢心していた。

その慢心が、滅びを産んだ。

                          ◆

二人はその日、同時に目覚めた。
予感がしたのだ。
魔が生まれ出でたという。
二人は各々の息子に、いざという時の準備をさせ、自分達は国外に広がる平原へと赴いた。

息子達は、それぞれ仰せつかった役を果たす。
一人は戦の準備を、一人は王への伝令を。
内容を伝えられた王は、すぐに仕度を始めた。
この件は誰にも話すなと、家臣への命令も添えて。

                          ◆

二人は剣を抜く。
地平の彼方から、朝日を隠して闇が舞う。
晴天であったはずの空は、雲ではない何かに黒く染められてゆく。
アブロサムの国が在った方角より、山のように大きな何かが、近づいてくる。
二人は息を忘れてソレを見つめた。

闇を纏う巨大な〝何か〟

アレを確か人はこう呼んでいたのではなかったか。
神、と━━

                          ◆

アブロサムの王子は、国全ての魔術師達を一箇所に呼び集め、儀式を行わせた。
彼等が行うのは〝魔法〟
全ての原理を根源から覆してしまう程の大魔術。
禁術と呼ばれた類の魔術は、総じて魔法に近い効果、威力を成すが、〝魔法〟と呼ばれる事は決して無い。
〝魔法〟とは、〝神〟が使役する術。
〝魔術〟とは、神の術を模して造った〝人間〟のためのイミテーション。
そもそもの基準が違うのだ。
だが、アブロサムの魔術師達は慢心した。
全ての力を以ってすれば、神と同じ力を発生させる事など造作も無い、などと。

結果━━
〝魔法〟は成功した。
彼等の行ったのは召喚魔法。
魔法と同じだけの力を持つ神をこの世に現臨させ、使役するのではなく、頼みを聴いて貰うというだけの魔法。
だが、召喚を実行したのは悪意の魔術師達。
そして、憎悪の王子である。

召喚されし神の名は〝カイン〟
〝アベルを殺害せし者〟の悪名を持つ、殺意の悪神である。

王子達の用意した召喚媒体など、全て無視された。
〝カイン〟は、アブロサムに住まう者の命全てを吸収し尽くし、その身をこの世に現臨させたのだ。
だが、所詮魔法といえど人の行いしイミテーション。
完全な召喚とはいかなかった。
不完全のまま召喚された〝カイン〟の中に残ったのは、シュシュバルツァを滅ぼすという一つの呪いだけが残った━━

                           ◆

山のような〝何か〟は、人の形をしていた。
形をしているだけで、決して人などでは有り得まい。
巨神が一歩進む度に、その周囲の命が吸い取られ、死滅してゆく。
朝日が昇る時間であるはずなのに、空はまるで真夜中の様に昏い。

遥か遠い平原の真ん中に、ここからでも見上げなければならない程の巨神が吼えた。

━━━━━━━ッ!!!!!!!!!

それだけで地は揺れ、虚空には雷鳴が輝き、飛ぶ鳥は落ち、平原を走り回る動物達は気を失った。

殺意の嵐が二人を飲み込む。
だが━━

二人はニヤリと、アブロサムの大軍を眼にした時のように、勇ましく、雄々しく笑った。

剣をテラスに立つ、親愛なる我等が友へと向ける。
王は応える様に、二人から授かった魔杖を掲げた。
全身全霊を剣に込める。
目の前には、強大すぎる敵が一匹。

我等は異邦人。

未知を見出し、新たな辛苦へ踏み込み、それら全てを飲み込む者。

其れ故に定住を望めぬ我らに、我が友は与えてくれた。

帰るべき場所、護るべき者達を。

だから我等は命を賭けて、それを護る。

二人は歌いながら、謳いながら、詠いながら、〝神〟にその剣の切っ先を向けた。

                           ◆

闘いは三日三晩続いた。
巨大な敵の前に、蚊程の小さなその体で決して怯む事無く勇者達は闘い続けた。
全てはシュシュバルツァのため。
愛した、新たなる故郷が絶望に涙しないためにと。
男達はその命を削って闘い続けた。
青々と広がった豊かだった草原は、〝カイン〟の攻撃で殆どが焼き払われ、そこに住まう獣達はことごとくその命を吸い尽くされた。
そして━━

ついには、英雄達にも限界が来た。

身体全ての筋肉が軋み、細胞が悲鳴を上げる。
もう剣は斬る事も満足にできぬ程に刃毀れ、握る手も力無く震えている。

だが、二人の眼の光は微塵も失われていなかった。

ついに、決着を付ける時が来た。
長い長い闘いに終止符を打つように、二人は身体に最後の活を入れる。
今この数瞬、たったそれだけの間敵の脚を止めれば完成する。
二人は、最後の突撃を敢行した━━

                          ◆

王は友人達の決死をその眼に焼付けながら呪〝シュ〟を唱え続ける。
二人が時間を稼いでる間、王もまた休まずに詠唱を続けていたのだ。
テラスに敷いた〝方陣盤〟と呼ばれる増幅装置の上で、行程を重ね続ける。
この魔術は、二人より教わりし〝禁術〟。
その威力は山を砕き、海を割り、空を裂くと伝えられる程の、アブロサムが行った儀式にも似た、魔法の模倣である。
装置の力もあって、王はたった一人でその大行程を完成させた。
その光は純粋な意志の下、確かな力と成った。
今放てば、傷ついた悪神を見事消し去るであろう、だが━━

その時、二人の会話がシュシュバルツァ全土に響き渡った。

「なぁ、白翁の」
「何だ、黒楼」
「吾等は真、良い主に巡り逢えたよなぁ」
「あぁ、誇り高く、忠義に価する良い主だ」
「吾等は幸福だったよなぁ」
「あぁ、全く以って」
「なればこそ」
「吾等の願いは、王と国、そして家族を護る事のみよ」

王は笑う二人を笑いながら見つめ━━術を解き放った。

                          ◆

爆光がシュシュバルツァを包んだ。
英雄達ごと、光が悪神を飲み込んだ。
数瞬の後に、静寂が草原を支配した。
残っていたのは━━半身を無くした〝カイン〟のみであった。

英雄達はその生涯を闘いで締めくくり、また〝禁術〟を行使した王も、誇りの内にその生に幕を閉じた。

しかし、未だ〝カイン〟は消えてはいなかった。
いかに禁術を用いても、所詮は人の力なのだ。
全てを滅ぼせるわけもなかった。
シュシュバルツァは絶望した。
この国最高の実力者三名の命を以ってしても敵わなかった魔に、誰が抵抗できるというのか。

誰もが諦め目を閉じるその中で、決して諦めない者が居た━━

                          ◆

半生の身でありながら、それでもシュシュバルツァに向かい進み続ける神を前に、三人の子供が現れた。

そう。
死した三人は知っていた。
自らの命を以ってしても、あの神は滅ぼし尽くせない事を。
だから、息子に最後の闘いを託したのだ━━

三人は共に頷き合うと、一人は詠唱を始め、二人は共に陣を組み始めた。
陣は封印術と呼ばれる魔術で、媒体を基盤に、小さな世界を作り上げ、そこに何かを封印するという術だ。
子供達の狙いは〝カイン〟の封印。
たった三人の子供の力では結果は見えている。

だが、詠唱を続ける子供には、驚くべき特徴があった。
シュシュバルツァに住む人間にはない、金色の瞳の色。
否、この世界の人間には存在しない色彩の眼。
神のみが持つとされる、金色の眸だった。
詠唱を始めてまだ数分であるというのに、彼の魔力の容量は父である王の禁術の力を遥かに超えていた。
だがまだ足りない。
世界一つを創り出し、そこに神を押し込めるなどという測る事すらばかばかしい力を前に、どうしても三人の力だけでは足りない。
ならば、と。
彼等は自らの親指の腹を噛み千切り、血の滴る傷口を合わせ、新たな術を行使する。
魂の契約。
それは、三つの魂を一つに集約させる事で力を倍増させるという禁術である。
その力を以って、彼等は更なる術の行使を図る。
〝善神の召喚〟
だが、彼等の狙いは現臨に非ず。
その大いなる善き力のみを自らの身体に付与してもらい、術を成功させようというのだ。

素早く動く事ができなくなった〝カイン〟に、焦りが生じる。
何とかその術を止めようと、上半身しかない巨体を引きずり、子供達を殺そうと腕を伸ばす━━

が、既に術は完成していた。
襲い来る〝カイン〟を前に、詠唱を続ける王子を護るかのように少年達が立塞がる。
各々の手には、父から受け継がれし、二本の宝刀。
二人の剣が、〝カイン〟の目の前の空間を十字に切り裂いた。
空虚が、穴を開けた。
手を伸ばした〝カイン〟が腕を引く間すら与えず、空虚は肥大化し、悪神を飲み込んでゆく。
そして、その場に居た三人もまた、空虚に飲まれようとしたその時。

力を貸すだけだったはずの神が、その姿を現した。

その姿は美しい女性の姿で、見る者を安心させるような温かさを纏っていた。
〝女神・ツィラ〟
〝カイン〟を産んだとされる神である。
〝ツィラ〟は哀しげに飲まれつつある〝カイン〟を見据えると、剣を持つ二人に何事か囁いた。
すると、言葉を聴いた二人はニヤリ、とどこかで見たような不敵な笑いを王子に見せると、二人で王子を虚空から投げ飛ばした。
虚空から投げ飛ばされた王子は、呆然と空虚に飲まれ往く神と二人の子供を見つめ、そしてその姿が消える頃、やっと彼等の意図を理解した。

そして、封印は完了した。

残されたのは、焼き尽くされた平野に佇む一人の少年と、ポツンと誰かが落とし、忘れられたかのような本が一冊。
王子は本を手に取ると、頁を捲る。

頁を捲ると、そこには先程まで共に闘った友人達の姿が書き記されていた。
幼き王子は涙を流しながら、その本を胸に抱き、帰還した。

その本のタイトルを〝無名封書〟という━━
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by kujikenjousiki | 2005-12-11 17:59 | 小説

始まり

百年と千年。
数字にすればたった一桁の違いだが、その差から生まれた歴史の差分はあまりにも大きい。

                           ◆

古い話をしよう。
千年の昔、シュシュバルツァはただの集落だった。
人の往来は確かに盛んで、そこに住む人々の数こそ多かったが、国や制度などという考えが存在すらしなかった頃。
集落を纏めるのは、その集落で一番の叡智と力を持つ者と取り決められていた。
長の候補者は、若い、20になるかならないかの未来ある男達だけに定められていた。
条件は二つ。
10年周期で新たな長を決めるという事から、集落をより良く導く頭脳と、先頭に立つ者としての力強さを測るものだった。
新たな発想を持って、古き習慣を壊し、良き繁栄へと導くテスト。
誰の方針が一番今必要であるか、そしてこの先に発展があるか。
それを信じ、選ぶのは女達である。
男達は競って切磋琢磨し、長に選ばれないながらも、それぞれの護るべきもののために、男達は骨身を決して惜しまなかったという。
誰もが、自分達の発展のために輝いたのだ。

そんな集落にも、一つの変化を呼び起こすきっかけが現れた。
交易の最中、二人の異人が集落を訪れた。

二人は、遥か極東の地から海を渡って旅をしてきたという。
この珍しい異邦人を、その代の長は笑顔で迎えた。
異人達も、その集落にすぐ馴染んだ。
二人の目的は、見た事の無い様々な場所で学び、鍛え、新たな見地を開く事であるという。
ならば、と長は考えついた。
この集落の長として、これから自分達の取るべき指針を、様々な世界を見てきた二人に尋ねたのだ。
二人は我等の旅が力になるのであれば、と気も良く今まで見てきた旅の話をした。

栄えている国、戦争をする国、滅び往く国。
ありとあらゆる国々の話を聞かせた。
集落の民はその話にすっかり聞き入り、ほとんど三日三晩、宴会の席を開いて異邦人の話に酔った。

そして、長が決めた指針は、これからこの集落を国とし、王を立てる事。
民から反対の声が上がる事はなかった。

そして、異邦人はついにその〝国〟から去る事にした。
〝王〟となった長と民草は、笑顔で二人を見送った。
国が立派になった時、必ずもう一度この地に訪れると約束して。

                        ◆

もう幾年越えただろうか。
集落はシュシュバルツァという名を冠した、立派な〝国〟となっていた。
昔から盛んだった交易は更に盛んになり、様々な情報を交換しながら、やっとここまでやってきたのだ。
シュシュバルツァは地平線まで見渡せる平原の真ん中に建っているため、交易の中心国として一番の利益を上げていた。
だが、〝国〟も立派になれば、大也小也問題も出てくる。
その問題の一番大きなものが、ついに現実化してしまった。

魔術国家アブサロム。
シュシュバルツァの隣国となるこの国は、栄華を極めた国を、魔術を以って奪い、己が国の肥しとする、とても攻撃的な国である。

勿論、シュシュバルツァも例外ではなかったのだ。
平和を掲げるシュシュバルツァには、軍備らしき軍備がない。
闘える者は千人にも満たないだろう。
国としては、軍の一つも欲しいところなのだが、王がそれを好まなかったためだ。
加えてシュシュバルツァは平原の真ん中に位置する。
故に、アブロサムに包囲されるのに、そうそう時間は要らなかった。
敵の軍勢は一万五千、この圧倒的な差は流石にどうしようも無い。
既に街は魔術により破壊され尽くしている。
今更自分の甘さを呪ったところでどうにもならないが、王は苦渋の決断をしようとした。
そう、白旗を上げようとしたのだ。

だが、王は奇跡を眼にする事になる。

間断なく続けられていた魔術による攻撃の嵐が、突如として止んだ。
何が起こったのか。
王は、城下町が一望できるようにと造ったテラスから、街の出入り口である門の前に立つ二人の男の姿を見た。
魔術は、男達の眼前で霧散していた。
王にはその二人に見覚えがあった。
その勇ましい風貌は、少しの年月を重ねた程度では、微塵も変わる事などなかったのだから。
男達は、一万五千の大軍を前にしてにやりと笑うと、頷き合って駆け出した。
勝利を確信したアブロサムの囲いの布陣は崩れ、既にシュシュバルツァの門前に集結している。

二人は、一万五千対二という圧倒的な大差を前に、怯む事なく突っ込んだのだ。

                           ◆

これはなんだ。
アブロサムの兵は慄いた。
たった二人の男がこちらに向かって突撃してくるのを、最初は嘲りながら見ていたのだ。

二人を迎え撃った最初の千人は、二人の往く手を遮る事さえ叶わなかった。
魔術師達を護る屈強な兵士達は触れる事さえできずに弾き飛ばされ、魔術師達の呪文はどんな作用によるものなのか、全てが二人の前に霧散する。
魔術師達に抵抗の術はなく、ただ斬り伏せられる。

アブロサムの愚かな王は焦った。
我が最強の魔術師達が、掠り傷一つ負わせる事無くことごとく倒れてゆく。
魔術も効かない、攻撃さえも許されない相手に、何をしろというのか━━

百戦錬磨であるはずのアブロサムは、たった二人の男に恐怖し、怯み、敗走を始めた。
敗北や敗走などといった恥など、欠片も考えには上らない。
相手は化物だ。
こんな化物を相手にしても、敵うはずがない。
だが━━

王がその考えに達するのには、全てが遅すぎた。

二人の狙いは最初からただ一つ。

逃げ帰ろうと背後を振りかえった愚かな王の眼前に、二人の異邦人が仁王立ちしていた━━

最早絶体絶命の窮地においやられたシュシュバルツァは、古き小さな約束により救われたのだ。
                                                  
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by kujikenjousiki | 2005-12-10 14:29 | 小説