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日記と小説に似ても似つかないモノです
by kujikenjousiki


終局

私が脚を折って約2ヶ月、ようやっと完治まで治癒が進み、私は御世話になった病院の先生方に挨拶をしに病院へきていた。
「よかったわねぇ、やっと治って」
一通りの挨拶を済ませた私は、入院中に仲良くなった看護婦のお姉さんと一緒に出口へ向かって歩いていた。
「でも寂しくなるわね、もうこないのかと思うと。本当はこんな事言っちゃいけないんだけれどね」
笑いながら看護婦さんは言う。
「私も少し寂しいですね、毎日顔を会わせていたのに」
私も、笑顔でそんな事を話す。
「でも、もう来ないよう頑張りますよ」
「えぇ、なるたけ来ない事を願うわ。それが一番なんだからね」
この人はやっぱりいい人だった。何故あんな━
(・・・あんな?あんなって・・・何?)
何かを思いだしかけた、それをちゃんと記憶に変換しようとしたところで━
「あだっ」
ズキンと、急な頭痛によって止められてしまった。
「どうしたの?大丈夫?」
気づけば、看護婦さんが顔を覗きこませながら心配顔を作っていた。
「あ、いえ、何でもないんです」
一歩退きながら手を振って誤魔化した。
「そう?顔色悪いから、早めに帰ってお休みなさい。ずっとリハビリと病室の行き来だけだったから、体がついてきていないのだと思うわ」
「えぇ、そうします」
頷いた時には、何を思い出そうとしていたのかなんて事は、頭の中から消えていた。

「それじゃ、失礼します」
「気をつけてね」
そう挨拶を交わして、私は病院を出た。

久しぶりの外は、初夏の空気と陽射しで輝いている。
「あぁ、いい天気で良かった」
少し暑いくらいの陽射しは眩く、時折吹く風は心地良かった。
帰路につくために、バス停を目指し歩いていると、向かいから女の子が歩いてくるのが見えた。

奇麗だ、と思った。
その少女は白いワンピースを身に纏っているものの、そんなものはただの服に過ぎず、恰好など気にならないくらい目惹かれるのは、紅い髪。
陽射しと風を受け、炎のように輝き踊っている。
ポーっと見惚れていると、スタスタと歩いてきていた彼女とそのまますれ違った。

「ボケッとしてると、また狙われるわよ」

はっとして振り向いた時にはその少女の姿はもうなかった。・・・・幻覚だろうか。
「何に狙われるっつうのよ・・・」
幻覚と幻聴がセットで来るなんてどうかしている。そう思ったが、少女の言葉は何故か心に重くかかり、きっともう忘れる事はできないのだろうと、確信した。

バス停に到着し、待つ間少女の言葉の真意を考えてみたが、どうにもわかるような気がしなかった。いや、むしろ解る方がおかしいのかもしれない。
そんな物思いをブッ飛ばすかのようにバスのクラクションが鳴り響き、私の意識は引き戻された。
乗り込み、椅子に座った私は、こう結論した。
バスを降りたその瞬間から、私を待っているモノはいつもの日常なんだろう、と。


「さて、一件落着かな?」
「まぁ修正者としての初仕事としては、上出来でない?」
去り往くバスを見送りながら灼髪の少女と、肩に乗っている生き物(形容し難い)がアイスを食いながら呑気に話している。
「まー収拾つかなくなって再構成なんかやらかしちゃったけど、まぁ許容範囲よね」
「結果世界は繋がったんだし、結果オーライだと思うけどね」
「んじゃ結果オーライという事で」
曖昧かもしれないが、まぁ大丈夫だろう。
そんな事を呟きつつ、彼女は事の顛末を手帳に書き記し、肩の物体に渡した。
「はい、頼むね」
あいよー、とやる気なさげに返事をし、物体Xは掻き消えた。
「うっし、報告完了」
初仕事にしてはよくやった、と自分では思う。まぁカッコイイ武具でカッコ良くバグを修正するハズだったのが、手違いで箒爆弾なんぞを呼び出し、バグが創った罅に力を突っ込んで世界を崩壊させたのは、失敗と見えるかもしれないが。
「よくある事よね、うんよくある事よくある事」
うんうんと一頻り頷くと、彼女はポケットから羽の生えた腕輪を取りだし、装着した。
「さって、とりあえずこの世界とはお別れだわね」
腕輪を掲げると、羽がクルクル回りだし、少女の真上の空間に穴を開けた。
「ま、もうバグも起きないだろうから、生きたかったら躊躇わずに生きなさいな、無礼者のお嬢ちゃん」
そう言った瞬間、空間に開いた穴に吸い込まれて少女の姿は消えた。

━彼女は知らない、世界一つをダメにした罰として、修正者の上司が説教をくれてやろうと、額に青筋立てて待っているのを━
by kujikenjousiki | 2005-09-07 02:56 | 小説
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