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日記と小説に似ても似つかないモノです
by kujikenjousiki


出会

まるで御伽噺の騎士様と御姫様のようだ。

私はほとんど空白に近くなった頭で、そんな事を考えていた。
忠誠を誓うとても素敵な騎士様(というには凄く服装が異国風だが)。
その口付けに頬を染めている御姫様である私(お姫様でなく王様なんだけど)。
昔夢見た御伽噺のヒロインに、何故か私はなっていた。
「あの・・・凍・・牙?」
考え無しにそんな言葉が口を吐いて出る。
しょうがないじゃないか。
彼の言葉の意味するところは、私に対する求愛。
つまりはプロポーズだったのだ。
あまりに突然の言葉に、手の痛みすら忘れて動揺してしまう。
嗚呼恥ずかしい、きっと今の私の顔は真っ赤だろう。
この熱さから察するに、耳までトマトみたくなっているんじゃないでしょうか・・・。

「何を惚けているのだホルス。契約の内容は勿論知っているだろう?」
ジーっと凍牙の顔を見つめ続ける私に不審を感じたのか、顔の前で手をヒラヒラと振られる。
「あ、いえ、すいません。その、こういうのは初めての体験だったもので」
あたふたと弁明するも、ますます情けなくなってしまう。
いけないいけない、冷静さを取り戻さなければ。
「ええとですね、凍牙。私はその契約というものの内容を」
「ホルス様、唯今帰還致しまし」

その時だった。
扉がけたたましい音を上げて開かれ、私の友人が大声を上げて突っ込んできたのは。

                        ◆●◇

「・・・・・・た・・・・・」

一瞬。
刹那にすら満たないであろうその一瞬。
俺の脳みそは考える事を放棄した。
「・・・・・・っの━━っにしてんだこの不届き者おおおおおおおおおおお!!!!!」
部屋を揺るがす程の叫びを上げながら、両手に刻んだ〝キューブ〟のルーンから無意識に取り出していたロンギヌスを構え、見た事もない不貞の輩の心臓目掛けて突っ込んだ。
「待って!違うのネフェル!!」
何が違うのかも知らないし、この男がどういう経緯でホルス様と侍従と俺しか入る事の許されないこの寝所にいるのかとかその不貞の輩が不貞のくせに物凄く美形だとかなんかその男に口付けされて顔真っ赤にして照れてるホルス様はもっと可愛いとかとゆうかその事に対して抱く念は嫌悪じゃなくて好感からくるものなのが更にムカツクとか顔が真っ赤どころか美しかった白い長髪まで鮮やかな紅に染まってもっと綺麗だよホルス様とか━━━
頭がオーバーロードする。
それと共に、靴に刻んだ〝クイックムーブ〟のルーンが発動し、俺の突進速度は倍化する。
とっさにこちらに振り返った男の心臓を喰らい尽くさんと、ロンギヌスの穂先が輝く。

殺っ・・・・・・ん?
まてまて、今俺は何を視界に納めた?
・・・紅い?

ホルスの髪をもう一度見直そうと、思考回路を取り戻してしまったのが運の尽き。
あまりに大きな動揺が、速度はそのままに、穂先の狙いを微かにずらした。
男は、その機を見逃さなかった。
穂先を紙一重で完全に回避し、槍の柄を握りながらネフェルの懐に踏み込むと、クイックムーヴによって勢いのついたその足元を軽く掬い、背後に向かいブン投げた。
掴む場所が槍になっただけの、見事な背負い投げである。
そして、背後には開かれた窓。

「げ」
「初見でいきなり心臓を狙うとはいい度胸だ。だが、あまり感心できんな」

まばたきをする。
次に眼を開いた時に見えたのは、とんでもない速度で迫りくる広い広い大地だった。

これが、敗北を知らない英雄の、初黒星だったりする。
by kujikenjousiki | 2005-12-06 03:05 | 小説
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