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日記と小説に似ても似つかないモノです
by kujikenjousiki


私は本を読む。
昼下がり、部屋を出る事すら満足にいかない私には、それしかできる事がない。
大切な事だ。
だが、考えれば考える程に想いは沈んでゆく。
救いは、外から清々しい陽の光と、少し冷たくなってきた風が窓から少しだけ入ってきてくれる事くらいだろうか。
友人は遠征でこの城を遠く離れている。
私が送りだしたのだ。
隣国の王が、領地拡大のために我が国土に侵攻してきたとの情報を、一昨日受けた。
彼には前線で指揮を執ってもらう。
英雄と呼ばれる彼にしか、民を逃がし、戦に勝利するという大役を任せる事はできない。
無事に帰ってきてくれる事だけをただ祈る。
できる事ならば私も応援に駆けつけたいが、例えできたとしても邪魔になるだけだろう。
戦の地は、私の城から遥か40里離れた場所。
立つ事さえ叶わない私には、祈る事しかできはしない。
情け無いと、叫び出したくなる時がある。
友は私の身を護る為に命を賭して闘い、家臣は例え戦争が起ころうと、危険を省みずに私の傍に居てくれる。
民は私を王と慕い、私の政策を信じてくれる。
何故こんな私なんかの為にと、何時も考えてしまう。
だが、それは彼等を侮辱する行為だと私は知っている。
落ち込んだ時に、いつも彼等は私を救ってくれる。
私は、護られている。
誇りを持って私に仕える者達を前に、何故私が彼等の前で悔し涙を流せようか。
私は、王として誇りを持って護られよう。
友人として、笑顔を見せ続けよう。
善き王として、民を護ろう。
民を想い、家臣を想い、友を想おう。
私にはすべき事がある。
さあ、儀を続けよう。
私は〝本〟を読む。
我が王家に1000年もの間、伝え続けられるこの〝本〟を。
未だ綴られ続ける、異世界の物語を━━

                           ◆

「白翁家当主、凍牙、前へ」
此処は祭壇、八百万の神を奉る儀式を執り行う清浄な空間。
神明造のこの社は、入ってすぐに儀式場がある。
四方を照らす蜀台の焔は、四神を顕す篝火か。
古字により描かれた陣の中心に、白翁は鎮座した。
宮司は白翁の数メートル前に座り、三社造の神棚に向かい、深く頭を下げている。
「これより交家の儀を始めます」
祈祷が終ったのか、頭を上げた宮司は、白翁に向かいそう告げた。
「四祖の巫女、参れ」
宮司が声を張り上げると、仮面をつけた巫女が4人、白翁を取り囲むようにその場に姿を現した。
「では」
「これより」
「白翁殿にはしばし」
「無心になってもらいます」
4人がそれぞれそう口にする。表情は仮面が邪魔で覗えないが、その声の冷たさから、表情など無いものと感じた。
北側の巫女から時計回りの順番に、白翁の傍から蜀台に移動する。
それぞれが蜀台の前に立つと、示し合わせて手に持った玉串を焔にかざし、火を燈した。
「では、白翁様、覚悟はよろしいですかな」
宮司が最後の確認をすると、今まで無言であった白翁が口を開いた。
「宮司、四祖の巫女、長きに渡る務め、御苦労であった」
白翁は立ち上がると、声を大にして叫んだ。
「封印されし我等が世界の役目此処に終焉を迎えど、我等が演舞、潰える事を知らず!」
そう、宣言した。
「私はここで終る事はできない、だが、貴方達はゆっくり休んでくださいね」
威厳など必要がないかのように、若者は優しく微笑んだ。
『御意に』
5人は、その言葉に涙を流しながら応じた。
「さぁ、終りの時だ」
白翁は、巫女達に儀の進行を促した。
焔のついた玉串を床に落とす。
すると、蜀台にも延びていた古字が燃え始めた。
四方から流れ出た火の蛇は、一文字一文字を焼きながら、白翁の周りの陣を燃やしてゆく。
「では白翁様、御手を拝借」
白翁は両手を宮司に向かって伸ばす。
「少々の痛み、御容赦の程を」
焔の螺旋を踏み越えてきた宮司が、二本の宝刀を抜き放った。
どうした事だろう、先程断たれたはずの黒楼の刀はその刀身を、まるで何もなかったかのように取り戻していた。
そして、宮司はその二刀で白翁の両手の平を貫いた。
「ぐっ・・・」
手から滴り落ちる血が、糸のように陣と手を繋いだ。
血を駆け上ってくる焔に、白翁はその身を焼かれた。
「白翁様、集中してください」
身体を灼くその熱さと、両の手を貫く赤熱する地獄に、白翁は自我を保つ事で精一杯だった。
だが━━
「と、豊葦原瑞穂国の神々よ、三全世界を律する彼方達に・・・」
最早身体の水分という水分が蒸発し、焼死体になっていてもおかしくはないその身体で。
「〝私〟が命ずる!!この宝刀に、我等を封印せし縛めを解き放つ〝力〟を与えたまえ!!」
ずるり、と宝刀が両手からひとりでに抜け落ち・・・ない。
二本の刀はそのまま中空に浮かび、〝誰か〟に振るわれるかの如く互いに打ち合った。

キィィィィン━━

焔の彩られた儀式場で、場にそぐわない澄んだ刃金の音が響く。
瀕死となった白翁が、崩れ落ちるその意識の片隅で目にしたのは、崩壊する〝世界〟
宮司や巫女達はもう目に入らなかった。いないのではない、もう存在しないのだ。
当然だろう、〝世界〟の土台を解きほぐしたのだから。
存在する意味のなくなったこの世界は、今終焉を迎えているのだ。

〝最後の一人を除いて〟
by kujikenjousiki | 2005-11-15 00:38 | 小説
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