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日記と小説に似ても似つかないモノです
by kujikenjousiki


現実崩壊2

夕日が校舎を赤く紅く染め上げていく。
空は真っ赤に染まり、陽射しの届かない反対側から夜が近づいてくる。
もう夕方の6時を過ぎている。活気のある部活でも、下校を迫られる時間だ。
そんな、静まりかけた校舎の屋上に、一組の男女が佇んでいる。
そう、片割は八神 武、そして、もう一人の片割は━
              
                          ◆

「・・・さ・・・や・・・」
目の前にいる少女は箕藤 沙耶、間違い無い、見間違える事なんてあるハズもない。
「なんで、なんで・・・沙耶?あれ?」
さっきの頭フル回転でオーバーヒートでもしてしまったんだろうか、ちっとも頭が働かない。
それどころか言葉までうまく発せられない、喉がひどく渇いて口が、舌が動かない。
棒立ちで、手が勝手にわたわたと動く、これではまるっきりただの挙動不審者だ。
「え・・・っと・・・え?」
そんな俺の様子を真剣な顔をして眺めていた沙耶は、ついにはプッと吹き出した。
「くっ・・・あははは、何ソレ、新種の遊び?・・・っははは、ヤダ・・・ちょっと笑わさないでよ・・・っくく、人が真面目な顔して会いにきたのに・・・っあははは」
目の端に涙すら湛え、思いっきり笑ってくれる。ついには腹を抱えて大声で笑い出した。
あぁ・・・沙耶だ。
ちょっとの事でもすぐ笑い、輝く笑顔を俺に見せてくれていた、沙耶だ。
毎日その笑顔の横にいて、絶対に失わせてなるものかと誓い、そして・・・守る事のできなかった━
「・・・沙耶っ」
俺は、俺さえも解らない間に沙耶に駆け寄り、抱きしめていた。
「え、ちょ・・・武?」
戸惑う沙耶に顔を見られないように、頭をギュッと胸に抱く。
俺は・・・情け無い事に、またしても泣いていた。
「沙耶・・・ごめんな、沙耶・・・」
「・・・・・・」

                          ◆

どのくらいの時間が過ぎたのだろうか、既に星は瞬いている。
紅かった学舎は夜の帳に覆われ、昼間の活気を消し飛ばし、ただ静かに佇んでいる。
俺は、泣きながら謝り続け、沙耶は黙って背中を撫でていてくれた。
なんとか落ち着いた俺は彼女を解放し、今は二人で落下防止用のフェンスの上に腰を落ち着けている。
「まったく、大の男が涙なんか見せるんじゃないよ」
沙耶は笑いながらそう言った。
「あぁ、すまね」
今となってはかなり恥ずかしいのだが、沙耶が笑ってくれた事に俺は心から安堵した。
「うん・・・でもね、私も謝らないといけない事があるんだ」
沙耶はフェンスから飛び降りると、クルリとこっちを向いて頭を下げた。
「ごめんね、心配かけて」
そう言った彼女の顔は、今にも泣きそうだった。
「武が私を守るって思ってくれてた事知ってるのに、悲しい思いさせてごめんね」
・・・あぁ、そうか、沙耶は俺が守るって誓ったのを知っていたのか。
「でもね、その事については謝るけど、私は自分がした事には後悔してないんだ」
顔を上げ、少し涙目で、
「私だって、武を守りたいって思った。だから、守れて、満足」
そう言って、誇らしげに笑う。
俺はまた、泣きそうになった。
何となく、理解できた。
例えこの事件で死んでしまったのが俺だとしても、俺は沙耶を守る事ができなかったのだ。
俺は沙耶が死んでしまったと聞かされただけで、自分を見失いかけた。
そんな思いを、沙耶にさせてしまったかもしれないのだ。
それでも、俺は、沙耶を失う事だけは容認できない、認めない。
でもそれは、結局は一人よがりで、でも、答えなんかでなくて。
「でも、沙耶が戻ってきてくれて・・・良かった・・・死んでしまわなくて・・・本当に」
結局、口から出たのはこの言葉だけだった。
「・・・・・・」
沙耶は黙って微笑んでいる。
そこでふと、疑問が頭をよぎった。

━修正者は、俺に選択を迫った。
未来が、沙耶のいる未来が違った結末を迎えるかもしれないけれど、彼女を、彼女がいるべき世界に修正しなおすチャンスを俺にくれてやってもいいが、どうするか?、と。

「なぁ、沙耶」
夜風を浴びて、心地よさそうにしていた彼女がこちらを向く。
「何?」
「沙耶は、なんで俺が死ぬって解ったんだ?」
そう、まだ不透明な部分が多すぎる。
解る事などないかも知れないが、空白が埋まらないのはスッキリしない。
そう思い、聞いてみた。
「映画館で」
沙耶は笑顔のまま語りだした。
「私、武がお菓子を買いに行ってる間に、ちょっとトイレに行ったのよ。そしたら、彼女がいたの、修正者って。会ったでしょう?」
何となく予感はしていたのだ。
沙耶は既に修正者と面識がある、と。
「彼女、一言私にこう言ったわ、八神 武を死なせたくなかったら、話を聞きなさい、って。そして勿論私は聴くしかなかった」
「それでか・・・」
あの女、最初からこうなる事を知っていたんじゃねぇか。
「そしたらね、〝ヒズミ〟とか、良くわかんない事を色々説明されて、とにかく要点だけを話してもらったの。そしたら、武の代わりに私に死ねっていうんだもの」
ケラケラと、沙耶はまるで笑い話のように語る。
「まさかって思ったんだけどね、どうしても不安で。しょうがないから武と全然違う道に別れて行って見たら、本当に死んじゃった。それで、気づいたらここに立ってた」
そしたら武が赤ちゃんみたいに泣き出して、と彼女は笑いながらまだ語っている。
だが俺は、肝心の内容が解っていない事に焦った。
「な、なぁ、その・・・死んだって・・・どうやって・・・?」
聴く事に、多少勇気がいったが、なんとか絞り出す。
すると、沙耶の顔から笑みが消えた。
「・・・知りたい?」
彼女の顔は真っ青で、とても恐ろしかった事が窺える。
だが━
「知らない事には、始まらないかも知れない」
そんな予感がする。
沙耶は目を瞑り、開いた。
「わかった」
そう言うと、彼女は続きを

「こうやって」

横に座っていたはずの沙耶の身体が掻き消え、目の前に出現した。
それと同時に胸に重い衝撃。
━彼女の右手が俺の心臓の位置を貫いているのが見えた━
by kujikenjousiki | 2005-10-22 01:36 | 小説
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